La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Grossmith London, the Greatest revival ever : day4

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Episode three - The Decision : A New Beginning
  ブルックさんが会社の権利を買い戻した後、いよいよ家督のフォーミュラからグロスミス社を代表する香りを復刻する運びとなりました。復刻にあたっては、往時のグロスミス社と同じ、最高級の天然香料を惜しみなく使用することが最大条件で、あまたある香料会社の中から天然香料の品質では随一と言われ、世界中に供給ルートを持つフランスの香料会社、ロベルテに白羽の矢が立ちました。ロベルテはグロスミス担当の専門チームを立ち上げ、復刻する際、アンバーグリス、ムスクなどさすがに入手不可能な動物性香料は合成香料に頼らざるを得なかったようですが、それ以外は現在手に入る最高級の天然香料を中心に用いたそうです。
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ロベルテ研究チーム公式写真。地震、来ませんように的ボトル配置
さて資金はどうするか?2007年末といえば、さながら不景気風ビュービューのリーマンショック前夜。起業に当たっては銀行が中々融資してくれなかったそうで、それもそのはず、ブルックさんは一介の、と言っては失礼ですが、商業地専門の不動産屋さんで、奥様のアマンダさんだって介護用住宅のボランティア活動とかやってた専業主婦。当時長女エレナーさんは18歳、次女ケイトさんは15歳。お二人ともまだまだ学業にお金のかかる年頃です。平たく言えば一般人ですから、金持ちにやさしく一般人に厳しい銀行は、夢の実現に胸を貸してはくれません。そこでブルック氏は遂に「残されたわが人生すべてを捧げる」と貯金は勿論、所有する不動産などすべて売却のもと、私財をつぎ込みました。その時サイモンさん55歳、アマンダさん52歳。自分が今50歳ですから、あと5年後に我が家のジェントルマンが先祖の何かを見つけて、復興するので今から起業、貯金全部出せ…なんて言ったら、気持ちは送るがとりあえず離婚してからにしてくれ、というと思います。この時、気分はマックス暴走特急のブルックさん(推測)。アマンダさんはその時のブルック家を「周りの方には『中年の危機到来⁈』と心配されました」と回想していますが、ごもっともな話です。

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シェメルネッシムのヴィンテージボトルとロベルテ社のガスクロマトグラフ分析表

ロベルテ精鋭チームのもと、極限まで家督のレシピに忠実に、かつ採算度外視で復刻された3つの香りはハスノハナ、プールナナ、シェメルネッシムの3種で、このうち1891年に発売されたプールナナはグロスミス史上最もポピュラーだった香りで、エレナーさんのボーイフレンドのお婆さんも使っていたとの事、そしてイギリスでは当時風呂にも入って、髪も整え、しっかり白粉もはたいてきれいにお化粧したキメキメの状態を「プールナナってる(Phul-Nanaish)」と言ったそうで、人気の沙汰がうかがえます。こうして2009年、グロスミスは21世紀の現代社会に「グロスミス・ロンドン」として不死鳥の如く蘇ったのでした。グロスミス・ロンドン製品は、香水は勿論のこと、ボトルからパッケージ、サンプルや細かな印刷物に至るまですべてをイギリス国内で製造しているのを誇りにしています。

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蘇りました

明日よりいよいよ香りのご紹介に入らせていただきます。お楽しみに!
 
 
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