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Metal EDT (1979) / Hiris (1999) | AGTP5 : Gentleman's favourite, Lady's fragrances

【ジェントルマンのお気に入り レディス香水編】
 
Metal EDT / Paco Rabanne (1979) 
 
レディス香水、最初はパコラバンヌのメタルです。ジェントルマンは、これまで自分が気に入ればそれがメンズだろうがレディスだろうが関係なく使ってきました。ジェントルマンが廃番になってもっとも残念がったのがこのメタルで、最後のワンプッシュまで使い切りました。1979年に発売後、一時廃番となり、2000年代にパコラバンヌの最初の香り、カランドル(1969)と再発後、同時に廃番となりましたが、数年前カランドルだけ再登場し、メタルはそのまま幻の香りとなってしまいました。そのため、使い切ってから幾度も「メタルはないかなあ」と懐かしんでいたので、ヴィンテージ品を探してきました。
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調香は、前年アナイス・アナイスを他3名の調香師と共作して名をあげたロベール・ゴノン。シランス(1978)も手掛けた、グリーンフローラルシプレの名手です。メタルは、その後フォロワーが出てこない、すぐにメタルだとわかる独特のドライなでメタリックな冷たい甘さがありますが、ケミカルかというとそうでもなく、体感温度が下がるかというわけでもないんですよね。名前を「メタル」にして、メインの香料はヒヤシンスとオークモスで、ベースノートはメンズライクなサンダルウッドや樹脂系で、これらをこの時代のレディスらしくアルデヒドで軽さを出したら、確かにどこか金属質な冷たい甘さになって、その名の通りメタルになった、というわけです。メタルと同じくパコラバンヌのラ・ニュイやマジー・ノアール、オリジナル版アルマーニなど、70年代後半から80年代前半に登場した、シックで大人っぽいアニマリック・シプレと、シャネル19番やシランスなどの知的で静かなグリーンフローラルシプレのちょうどはざまにいるような香りで、こういうスタイリッシュな香りはこのイメージの女性と共に絶滅寸前です。ヨーロッパの免税店では今でもしっかりカランドルが、目立たない場所でも2-3列並んでいるんですが、メタルとカランドルはボトルの金型が全く一緒だったので、1列くらいメタルでもいいのになあ、私がロスチャイルドの人だったら真っ先にメタルを再発しますね。今回そこに並んでいるメタルのオードトワレも、キャバレーが終わったらジェントルマンが使うことになっています。
 
Hiris EDT / Hermès (1999)
 
エルメスのイリスは、LPTでは今回初登場ですが、もともとイリスは10年以上前に私が使っていたものを、飽きてしまって放置していたのをジェントルマンが気に入って使い切ってくれました。リピートはありません。エルメスのフレグランスは、ゲランの様にディープにディスカウントされないので、おうちの経済を考えると、毎日使う主人の香りは、エルメスのようなブランドは選択肢からていねいに外します。さて久しぶりにイリスを入手して嗅いでみましたが、薄くて硬い!なんだこの薄い硬さは、誰が作ったんだろう?
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イリスは1999年発売なので、2004年にジャンクロード・エレナが専属調香師になる前の作品ですが、女性の方ですね。代表作はアンパッサン(マルちゃん)、フィロシコス(ディプティック)、プルミエフィギュエ(ラルチザン)…お分かりになりました?そう、薄口女王、オリビア・ジャコベッティですね。薄くておしゃれな香りを作らせたら天下一品の売れっ子調香師です。ホームフレグランス出身で、ラルチザンでは創業者のジャンフランソワ・ラポルトが離れた後、ベルトラン・ドシュフュールと並んで買収前の全盛期を築いた立役者でもあります。今、アイリスを主軸にした香りがウードの次に大流行していますが、元々アイリスは、ベースに加えると全体が品よくまとまるので、大なり小なり使われてきた香料ですが、それ単体だと、バラとかジャスミン、チュベローズなんかとくらべて少々華やかさに欠けるので、いわゆる花香料における地味キャラだったんですが、2007年にでたプラダのインフュージョン・ディリス(ダニエラ・アンドリエ作)辺りから、一気にメインを張るようになりました。エルメスのイリスは、その主役を張る前の時代のアイリスで、ひと言でいうと、この香りに一番欠けているもの、それは「パッション」だと思います。主役なんですが生気がない。控えめという意味ではなくて、絶対、前に出てこない。脂っ気がないと言うか、ローファットを越えてノンファットな印象があります。敢えてそういう作りにしているのだと思いますが、ここに、本来はつける人の体温が重なって、温まっていい香りになると思うんですが、10年前ジェントルマンはそんなイリスが気に入って使いきり、今回も久しぶりに嗅いで「あっこれ、この香り」と再会を懐かしんでいました。ただ「あれ?でもこんなにケミカルな香りだったっけ」と少し驚いた様子。何故驚いたのか。それは、この10年でジェントルマンの鼻が育った。イリスは変わらない、ジェントルマンが育った。そういう事です。最近は、使ってほしいと選んできても、よほど気に入らないと私物に昇格しなくなりましたけどね。
 
はい、次回は最後のパターン、ジェントルマン低評価及び高評価の香りをご紹介します。
 
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