La Parfumerie Tanu

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Lyric Man (2008)

A Gentleman Takes Polaroids chapter twenty three : Rosy Gentleman in Summer 2
 
立ち上がり:むー。なんかケミカルな感じがする。あと酸味もキツい感じが。
昼:隠れてたローズ香が段々出てきました
15時位:グリーン系も出てきました。結構印象が経時変化激しい
夕方:むーん....色々複雑な香りなんだがどれもあまり好きじゃないなあ・・・申し訳ない なんかパンクの人にユーロプログレ無理やり聴かせた感じだ
ポラロイドに映ったのは:現代音楽のフェスに間違えて紛れ込んだロケンローラー(内田裕也的な)
 
Tanus' Tip :
 
ローズをテーマに置いたフレグランスは枚挙に暇がありませんが、①男女ともにシェア出来て②季節を問わず気持ちよく使える③現在入手可能な作品、となると、きゅきゅーっと絞込みがかかり、易々選べるかな?と思いきや、さすがは花の中の花、結構これがあるもんです。「夏のバラ色ジェントルマン」と題し、上記の条件で先月は安物買い編としてアフォーダブル香水を3本ご紹介しましたが、今月は予算が一桁アップ!ラグジュアリー編をお届けします。
「ラグジュアリー編になると、とたんにボトルが小さくなるな」ジェントルマンの鋭い指摘どおり、今回は予算の都合で主にメーカーサンプルでポラロイドを写してもらいました。 

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アムアージュのメーカーサンプル 非常に造作が綺麗です
少し前まで「世界一高い香水」の異名で知られたラグジュアリー系の代表格・アムアージュも、最近では金歯の微笑系ブランド(ロジャ・ダヴ、クライヴ・クリスチャンなど)や高級デパート限定モデルなど、価格がうなぎ昇りのメゾンフレグランス界では押され気味です。一方でアムアージュは数年前からディスカウンターに流出するようになり、定番から準新作であれば公式価格の半値近くで入手できるようになりました。とはいえ、公式価格が$260~$475(EDP100ml)の半額ですから、まだまだいいお値段といえばいいお値段です(ちなみにボトルは同じ金型を使用した統一デザインですが、アムアージュの作品は価格帯に幅があり、かつメンズよりレディスの方が高価)。
 
19世紀末、ヴィクトリア女王の治世にイギリスの保護国となり、1971年に独立した絶対君主制国家・オマーン国のブーサイード朝君主、スルタン・カーブース・ビン・サイードの命をうけ、オマーンが誇る香りの文化を再興させんとサリード・ハマド・ビン・ハムード・アル・ブーサイード殿下が国策として1982年創業したアムアージュは2006年、長らく英国アパレル系企業の経営に携わっていたデヴィッド・クリックモアがCEOとなり、クリックモア氏がアムアージュ創業25周年にあたる2007年、ヘッドハントした香港からの移民だったニューヨーク青年が、ブランドディレクターとして現在も活躍中のクリストファー・チョンでした。現在のアムアージュは、メインオフィスをロンドンに構え、続いて問合せ先としてオマーン(私書箱のみ)、ドバイ(UAE、関連会社)にオフィスがある、ほぼイギリスのブランドと言っても過言ではありません。公式サイトもイギリス中心に物事が回っているようで、世界発送対応としていながら、日本への香水輸送が厳しく規制されているイギリスの企業らしく、日本からは購入できません。  

アムアージュは当初、アラブ諸国向けの香油と「落とすな危険」級のクリスタルボトルに納めた香水を、レディス・メンズの隔てなく発売しており(アラビアン・フレグランスは基本的に性別分けがない)、ギィ・ロベール師が手がけたゴールド(1983)も最初はレディス1種類だけ、かつ名称もシンプルに「アムアージュ」として販売されていたものを、のちにゴールドと名付け、後追いでメンズ(1998)を作ったのですが、現在のレディスボトルはオマーンの首都マスカットにあるルウィ・モスク宮殿(写真左)を、メンズボトルはオマーンの伝統的な短剣、カンジャ(同右)の持ち手を模っており、ヴィジュアル的にはアラビアンデザインが活かされていますが、壮麗なテーマでオマーン特産のシルバー・フランキンセンスを惜しみなく使用した香調で知られたアムアージュの近作を見ると、ビーチだのネオンだの、だんだんテーマの軸がぶれているように感じるのは私だけでしょうか。

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リリックは、アムアージュ創業25周年にあたる2008年、記念フレグランス・ジュビレイション25(XXV)と同じ年に登場した、まだまだテーマが荘厳だった時代のペアフレグランスです。パッケージで一目瞭然のとおりローズが主題のリリック。今回ご紹介するマンは、立ち上がりこそ王道の男らしいアロマティックウッディのオーラを醸し出しますが、程なく現れるのが、得も言われぬほどまろやかなクリーミーローズ。小一時間もしたら、どこがどうこれをメンズフレグランスとして世に出したのか首をかしげるほど麗しくフェミニンな香りに変わります。アムアージュ作品の中ではスパイシーオリエンタルに分類されていますが、オリエンタル度は低めで、ウッディグリーンローズといった方がしっくりくると思います。

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元来アムアージュの香りは共通の香料を多用し、ウーマン・マンとも100%シェア可能なものが多く、初出のゴールドは「同じ顔をした美しい一卵性双生児の男女が、完全なる女装あるいは男装をしているような、どちらがどちらの香りをまとっても、目を覆いたくなるような美しさ」を楽しめる作風のペアでしたが、このリリックマンも女性がつけたらメンズフレグランスをつけているとは誰一人思わないでしょう。彼の香りが彼女の肌に移り、そして彼女の香りもまた彼の肌に移り、ひとつの美しい香気となって二人を包むーそんなセンシュアルなイメージが既にこのリリックマン1本の中で成立しています。
 
溢れるローズにガルバナムやパインツリーなど爽快なグリーンが重なり、フランキンセンス、ムスク、サンダルウッドが羽二重のような柔らかさとパウダリー感をもたらし肌に溶け込むリリックマンは、バニラや樹脂系香料が控えめな一方でベースにパインやフランキンセンスがしっかりあるため、時間の経過とともに甘くならず、バラ精油の持つ穏やかな鎮静効果を高めています。ミドルからラストにかけて、どんどん、どんどん心地よくなってくるので、試香後サンプルだけでは辛抱堪らず、まんまと自分用にフルボトルを購入してしまいました。
 
重厚なウッディスパイシーローズのリリックウーマンも、たおやかなグリーンローズのリリックマンも溌剌としたフレッシュなローズではなく、どこかメランコリックで影のある共通のトーンがあり、それがボトルカラーにも反映しています。10年前の作品ですが、全く古さを感じさせず、長く愛用できる普遍的要素をしっかり従えた良い作品だと思います。ちなみに、このリリックマンのジェネリックとして、先日ご紹介したパフューマリー・ワークショップのティーローズを挙げているレビューを散見しますが、確かにリリックマンの中にはティーローズ的要素もあるものの、ちょっとそれはあまりに雑な意見というか、お互いの立ち位置に失礼なのではという気がします。
 
試香中、リリックマンをつけたジェントルマンがお部屋の何処かにいるだけで、それはもう優しい寛ぎのさざ波が寄せてくるように心地良かったのですが、残念ながらジェントルマンには驚くほどの低評価。とんでもない輩がポラロイドに映ってしまいました。それもまあ、クロスレビューの妙味というもので、読者の皆様はせいぜい判断にお苦しみください。よろしくお願いします。
 
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