La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -


Chypre Palatin (2012)

立ち上がり:甘い香りが濃厚に・・・朝から甘さがあるのが似合うタイプでも無いので初っ端から辟易
 
昼:甘さは変わらない。こんなの匂いさせて仕事してるとなんか誤解されそう。見た目ムサイおっさんが甘い匂いってどんな罰ゲームだよ。
 
15時位:少し落ち着いたかな・・・・まあこれ位なら職場でも許されるか(但しイケメンに限る。当然私は対象外)
 
夕方:ここまで来ると微かに香る感でまあ良いかな。ここまで待つ必要性は全然ないけど。仕事終わったら家帰ってビールとジンを呷るだけだし。夜の世界は無縁・・・・残念?でも無いし
 
ポラロイドに映ったのは:未だに80年代ギャグを若者にかまし困惑してるのを喜ぶミッション系私大出身定年間際おじさん。
 
Tanu's Tip :
 
シプレ・ジェントルマン3品の中で、最も安心して実装できるのが、今回ご紹介するパルファムMDCIのシプレ・パラタンです。ユニセックス系MDCI作品の中でも特に評価が高く、この香りについてネガティヴなコメントを聞いた記憶がありません。手がけたのは今やニッチ系調香師のトップ人気を誇るベルトラン・ドシュフュールで、この人の手掛けた香りに対する私の非常に個人的な印象は「最後に何か余計なものを入れてしまう人」。信奉者が非常に多い方で、確かに基本的には複雑でいい香りなんだけど、何か一つ余計なものがその心地よさの邪魔をする、それが何だかは良くわからないけど、とにかく「会場総立ちのスタンディングオベーションで盛り上がっている中に、一人か二人棒立ちでどっちらけの人がいる」「ラタトゥイユの仕上げにわさびを入れる」そういう、渾然一体となったハーモニーに水を差すものをこの人の作品には高確率で感じてきたため、気になる作品や好きなブランドの新作がドシュフュール作、と聞くと「ゔ、」と一瞬体が硬くなるようになりました。もちろん腕の見せ所が見事に開花している作品もあり、このシプレ・パラタンはその一つと言えましょう。
 
当たり前の事ですが、自らがブランドオーナーである調香師以外は、調香師という人は一人で作品を作るのではありません。必ず誰かの依頼(人、企業)で調香し、処方を依頼主に提供するのですが、この依頼主が作り手に対し確固たるヴィジョンなりイメージを伝えきれない、要は説明がいい加減な場合、おのずと作品の仕上がりに影響が出てきます。大して面識のない人に財布だけ渡し、ただ「お肉買ってきて」というのと同じです。家族や付き合いの長い相手なら「ああ、トントロ1パックだな」となりますが、世の中察しの良い人ばかりではありません。一方依頼した相手が、腕はあるんだけど咀嚼力の弱い調香師、という事もあるかもしれません。しかも依頼主自身、仕上がった作品を判断する鼻が鈍い、またはそもそも欲しい香りのイメージが弱い場合、判断基準も鈍りますので、調香師はたいてい何作か試作品を作り、そこから依頼主に選んでもらうのですが、依頼主が選びきれない、または妥協してしまうとその結果も残念なものになります。そういう点を踏まえると、依頼主であるパルファムMDCIのオーナー、クロード・マーシャル氏の「錦や重厚な毛織物をまとうように荘厳でいながら、日常使いにも使いやすい、親しみのある『宮廷のシプレ』をお願いします」という、振れ幅最大、究極の南北自由通路みたいなリクエストを伝えきり、調香師も正しく咀嚼した結果生まれた秀作がシプレ・パラタンではないでしょうか。 

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シプレと言いながら、主役は温かなトル-バルサム。そこに、ビターなガルバナムが懐かしいアルデヒドのリフトと共に爽やかに立ち上がるなか、酸味の少ないクレメンタイン(マンダリンオレンジの一種)と熟したプラムの酸味が加わり、ヒヤシンス、ローズ、アイリスといった、それぞれが玉座を得るに相応しい豊潤な花香料が、まろやかなトルーバルサムやバニラ、ふかふかのオークモスに包み込まれるように柔らかく香ります。アニマリックなレザーも香り、マーシャル氏のイメージになぞらえて言うならば、自らが戴冠式でまとった、毛皮の襟を施した重厚な深紅のケープを撫でながら往時を懐かしむ老王のまわりで、小さな子供たちが走り回る…そんな朗らかな、しかし厳かな時の流れが立ちのぼる香気から感じ取ることができます。こんな文化背景の違う、市井の東洋人ですらそんなイメージを抱くのですから、歴史と文化を共有できる西洋の方々の評価が高いのもうなづけます。女性がつけてもベースにしっかりとした、しかも出過ぎないコクのある甘さがありますので、男性の借り物にならずお楽しみいただけると思いますし、持続という点では樹脂系が多いながら若干弱含みなのも消え入り方が美しく、日本では却って好都合でしょう。ただし残念ながらジェントルマンの評価は今ひとつ。これは、甘口苦手&辛口ベチバー好きのジェントルマンだからこその結果であり、このように2名の評者がまっこう意見割れるというのも、クロスレビューの妙味と言えましょう。

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さてこのシプレ・パラタンは現在の水色が黄味の強い橙色(写真左・2018年4月、リアンヌ・ティオ・パルファムにて撮影)をしていますが、発売当初は水色がもっと赤かったので、この水色の変更で「シプレ・パラタン処方変更説」としてまことしやかに噂が広まりました。それについて公式の場で説明する機会がなかったのか、なんとクロード・マーシャル氏が香水情報サイト、Fragrantica上のシプレ・パラタンのスレッドに実名で投稿しており(2018年2月16日付)、「過去の投稿に、シプレ・パラタンは処方変更されたとのコメントがありますが、それは事実無根です。当社のような小規模な、品質とお客様満足度だけを考えている会社にとって、処方変更は悪夢でしかありません。IFRAから何の規制も受けて居ないにも拘らず、なぜ処方変更する必要があるのでしょう?香水の水色が変わったのは、発売当時に添加していた色素を抜いたため、香料そのものの色味となった結果であり、そこに処方変更が連動するものではありません。これ以上手の加えようのない、完成された処方を薄く変更するなど、車のブレーキをわざと脆弱に作り、交通事故を起こして新車購入を促すのと同じ思考回路です。そもそも処方変更自体、費用も掛かるうえ、困難とフラストレーションを伴う作業であることを忘れないでください。当社の作品、アンレヴマン・オ・セライ(2006、F・クルジャン作)も、香料規制により処方変更を強いられましたが、代替香料では納得のいく変更ができなかったので、オリジナルの劣化版を継続生産するより、潔く廃番とさせていただきました。心無い噂を根絶やしにすることはできません。よって、この場をお借りして、当社はシプレ・パラタンを断じて処方変更していない事をお伝えいたします(要約)」と、まさかの意見広告を投稿していました。
 
相変わらず、不器用だなクロードさん…今回、たまたまシプレ特集でピックアップしたシプレ・パラタンでしたが、70近いクロードさんがここまで熱く、しかも一ユーザーとして実名投稿するなんて、立場も話の論点も全く違いますが、なんか「君も、色々思うようにならない事があるだろうが、信念を持って頑張りなさい」と、物凄く勇気をもらった、そんな気持ちになりました。…あれえ、そういう話だったっけ?
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