La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

Green Water (1947) *previous version reorchestrated in 1993

立ち上がり:お。これは今まで経験したことのない感じです。爽やかなんですがかなり複雑な香り。良い感じです
 
昼:この手の香りのものにありがちですが減衰は早い。しかしまだ残り香が良いです。ジンジャーっぽい感じが出てきました
 
15時位:爽やかさは背景に下がりムスク系の香りが出てきました。が もはや微か…
 
夕方:微かな香りですがまだ持っています。この手ものにしては持ちはいい方か?夏に似合いそうで気に入りました。
 
ポラロイドに映ったのは:スーツを清潔に着こなし出勤中の電車に乗っているがイヤフォンからは北欧デスメタルが流れてる30代半ばの男
 
f:id:Tanu_LPT:20180415172501j:plain
グリーン・ウォーター EDT 50ml 旧処方版(廃番)
Tanu's Tip : 
 
世界を蹂躙した第二次世界大戦が終結した1945年、すでにその前年の1944年にノルマンディー上陸作戦(6月6日)やパリ解放(8月25日)など終戦へ向けての大きな山場を越え、新しい時代へと向かい始めていたヨーロッパでは、翌年の1946年には「待ちわびた時(ルール・アタンデュー:ジャン・パトゥ)、「歓喜の心(クール・ジョワ:ニナ・リッチ)」、「マ・グリフ(私のサイン、カルヴェン)」など、長い困難の歳月から解放され、新しい時代への讃歌とも言うべき明るい名前の香りが次々に発売されました。続く1947年には、戦後グリーン系フレグランスの歴史的名香がふたつ誕生し、長らくその名を轟かせることになります。ひとつは戦前~戦後を股に掛けて活躍したカリスマ女性調香師、ジェルメーヌ・セリエが手掛けたバルマンのヴァン・ヴェールと、今回ご紹介するグリーン・ウォーターです。
 
その名もずばり「緑の水」のグリーン・ウォーターは、パフューマリーとしてはイリス・グリ(1946)で衝撃のデビューを図ったパリのクチュリエ、ジャック・ファット初のメンズフレグランスで、調香は前出のイリス・グリやLPTでは粉物でお馴染みのレーマン(1927、コティ)、先日キャバレーLPT vol.6でご紹介したクニーシェ・テン(1925、クニーシェ)などを手掛けたヴァンサン・ルベール(1889-1972)が担当しています。ヴァンサン・ルベールは1920年代から40年代後半に活躍した調香師なので、このグリーン・ウォーターは師にとって50代後半に手掛けたキャリア後期の作となりますが、記録に残る作品は決して多くないながら、遺した作品がいちいち歴史的意義の大きな作品や世界的大ヒット作で「寡作の巨人」という印象があります。今年は秋にルベール師の裏傑作であり「粉物の歴史を変えた問題作」、イリス・グリのリメイク版の発売が決まり、先般ミラノで開催されたEsxenceでボトルが先行公開されていたので、粉物マニアの私としては今から秋が待ちきれません。
 
グリーン・ウォーターを発売したジャック・ファットは、創業から1992年までロレアルの傘下ブランドでしたが、その後親会社が転々とし、グリーン・ウォーターもロレアルを離れた翌1993年に処方変更が施され、その後もブランドの代表作として売りつながれていきましたが、現在の親会社であるパヌージュが権利を買ってから、B級ファッションフレグランスの一員として新作を投入していたジャック・ファットを「なかったことにして」メゾンフレグランスの土俵で2015年、いちから出直したのが、ファット・エッセンシャルスのラインです。基本的には新ラインですが、1点だけシリーズの目玉としてグリーン・ウォーターのリメイクを投入する運びになりました。その際所有している処方からリメイクするのではなく、オズモテークに保管してあるオリジナル版グリーン・ウォーターを、ガスクロマトグラフィーに一切頼らず自分の鼻だけで翻訳し、新生グリーン・ウォーターとして蘇らせたのが、これまたLPTでは頻出の女性調香師、セシル・ザロキアンで「長年の愛用者の期待を裏切ることは決してできない、この偉大な香りを再現することは、自分にとってまさに最大のチャンレジだった」と述懐するほどハードルの高かった新生グリーン・ウォーターは、その労をねぎらうに相応しい称賛を得て、発売後3年経った今でも幾度となくメディアで紹介されるほど評価が高く、生き残りの厳しいニッチ系市場の中で、3年も最前線で紹介される作品というのはそうそうないので、どれだけ高評価なのか、おのずと知れましょう。

f:id:Tanu_LPT:20180415171307j:plainしかしながら今回ジェントルマンコーナーでご紹介するのは、その華々しいファット・エッセンシャルス版ではなく、リメイク前夜、すなわち復刻に際しあてにもされなかった、1993年の処方変更版グリーン・ウォーターです。ファット・エッセンシャルス版も幸いサンプルが入手できたので近日中に別途ご紹介いたしますが、今回はディスカウンターにどんぶらこっこ流れていたところを網で掠め取ったデッドストックをポラロイド。お値段もアフォーダブルな送料込4,000円(50ml)でした。今回試した3作の中では一番高評価で、レビュー終了後晴れてジェントルマンの自家用に昇格しました。香りとしては、いかにもジェントルマンの好きそうなフレッシュなシトラスグリーンで、全体の雰囲気はムッシュ・バルマン(1966/1990)を彷彿とさせますが、ムッシュ・バルマンはレモンとサンダルウッドのシンプルな調和、といった風情ですが、グリーン・ウォーターにはペパーミントを投入することによって、シャワーを浴びて更に歯まで磨いたスーハーな爽快感が加わっていることで、この爽快感がちょっとだけピリッとジンジャーっぽくもあり、シトラスミントグリーンというありそうでなかった組み合わせに、当時の殿方は心を奪われ、浮気もせずに愛用したのでしょう。フレッシュなペパーミントやレモンバーム、バジルなどをたっぷり入れたガラスポットから注ぐハーブティのように、理屈なくフレッシュ&リフレッシュなこの処方変更版グリーン・ウォーターも、これはこれで結構いい線行ってると思うので、知らぬが仏という事でここでは新旧比較はしないことにいたします。何故ポラロイドに北欧デスメタルを車中愛聴しているこざっぱリーマンが映ったのかも、会社の人に彼のご趣味は知らぬが仏という事で、あえて問わないことにいたします。

 

f:id:Tanu_LPT:20180415172451j:plain
シトラスミントグリーン味

 

contact to LPT