La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Eau de Rochas (1970)

A Gentleman takes Polaroids chapter twenty : Fresh Gentleman
 
立ち上がり:懐かしい爽やかさです。ライム系の背後に薄くムスク系の香りが隠れているか?ちょっと時代ががった(90年代風)感じがします
 
昼:あっという間に微かな香りになってきましたがベチバー系出てきたか。
 
15時位:ほとんどつけてる事を忘れてしまってます。肌に鼻近づけるとムスク系の残り香がありますね。
 
夕方:消えた!
 
ポラロイドに映ったのは:スマホ全盛の今でもガラケーを使い続けてる人。拘りがあるわけではなく、新しい物使う必然性を感じないし、今これを使ってて不便感じないし…という感じで生きている御方。
 
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オードロシャス EDT 400mlフラコン
 
Tanu's Tip :
 
今年の冬は例年になく寒かった一方で、暖かくなるのも急だった東京。3月下旬から通常より数日前倒しでソメイヨシノが開花し、ふだんなら順を追って色々な花が切れ目なく咲くところ、まるで北海道の春みたいに一斉開花。あちらこちらで満開となりました。いつもにもまして三寒四温が激しいこの4月、ぱーっと明るくライトな香りに着替えたい!と思っても、行きつ戻りつの天気に香りの衣替えもままならない方も多かったのではないでしょうか。それでも常に一歩先を行くジェントルマンは4月上旬で既に半袖、男は薄着で頑張っています。今月は「さわやかジェントルマン」と題し、本来ならこの季節に相応しいシトラスシプレ系クラシック香水を2点と、戦後グリーン系の名香を1点ご紹介します。
 
1970年代、名実ともにブランドのピークタイムを迎え、当時のゲランが最大のライバルとして警戒していたと言われるパルファム・ロシャス。日本でもデパートの香水売り場の花形ブランドとして、新作が出ればカウンターの一番前にずらりと並んでいたのを覚えています。今となっては「昔のブランド」と思われても仕方のない存在感の薄さに、当時の勢いを知る者としては昔日の感がありますが、現在はインターパルファムの一ブランドとして存続しており、日本でも数年前までブルーベル・ジャパンが代理店でしたが、現在は日本撤退しています。

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オードロシャスは、世界的大ヒットとなったマダムロシャス(1960)の次に発売されたレディス向け香水で、マダムロシャスとオードロシャスの間にはムッシュロシャス(1969)1点しか発売されていない事から、まだ何かヒットが出たら毎年のようにバージョン違いを出すようなドジョウビジネスは登場していないこの時代、あまりにマダムロシャスがヒットしたので、ヒット収益を謳歌するとともに、次の一手は慎重に打ちたいところだったのか、前作から10年も空いての登場でしたが、これまた大ヒット。レディスものですが男性の愛用者も多く、今でいうセレブ愛用香水としても有名になりました。調香は、戦後ロシャスの牙城を築き上げながら、前任のギィ・ロベール(マダム・ロシャス)やそのまた前のエドモン・ルドニツカ(ファム)とくらべ、過小評価のきらいがある専属調香師、ニコラ・マムーナスが手掛けています。
 
香りとしては、60年代後半から70年代前半のヨーロッパで流行の柱のひとつとして台頭したオーソドックスなシトラスフローラルシプレですが、先鞭としてイグレック(1964、ジャン・アミ)を代表とするシプレフローラルアルデヒド系、もっと遡るなら戦前のフルーティシプレ系が家系図に控えています。アルデヒドを抜き、女性らしいフローラルな甘さを控えめに、トップノート、ベルガモットやレモンなどのフレッシュなシトラスとバジルやコリアンダーなどグリーンハーブを増幅し、アルデヒドのパウダリーなリフトを後ろに下げる代わりにオークモスの大量投入で薄日感を増幅したのが「引き潮の美学」シトラスフローラルシプレ系の基本構造で、オードロシャスもその基本を違えていませんが、ポイントは、単純にフレッシュで明るいのではなく、オークモスで「影」を演出している点で、晴れやかな青天の中に不透明な雲もちぎれ飛んでいるようなもやっとしたコントラストに、ただ爽やかではない、そこかとない胸騒ぎが漂う色香も感じます。明快だけれどそれだけではない、朗らかだけれど秘密もある。ボーイッシュにパートナーの大きな白いシャツを羽織っても、躰の凹凸や曲線は確かに女性と判り、そこが却って色気を感じる、シャツの中身は下着なし、みたいな雰囲気がオードロシャスです。こういう香調なだけに香り持ちはせいぜい数時間、朝つけたらお昼にはうっすらとしたスキンムスクになる持続で、90年代から台頭してくるニューシトラス系みたいに朝つけて翌朝まで持つなんてことは毛頭なく、知らないうちに肌の上から消えてなくなるのが良い所です。オーデコロンとして使う人もいるのか、なんとタヌ家にあるのは中身とボトルで1キロはありそうな400mlフラコン。これ、このまま毎朝シャワーの後手に取ってパシャパシャやるのかな、バスルームでパッシャパッシャ、ガシャーン!なんてことにならないように、適宜アトマイザーに移し替えてお使いになるのをおすすめします。
 
とはいえ、ジェントルマンのポラロイドに映ったのは、移動通信費が月額2,000円程度で収まっている方。よく神社仏閣の庭先に「知足安分(ちそくあんぶん:足りるを知る)」と彫られた篆刻とか石碑がありますが、私の周りでもガラケーを使い続けている人は共通して「現在の通信環境で本当に不自由していない」という印象があります。家族との連絡も、部下の急な病欠もすべてSMSで充分。移動中の車内では文庫か爆睡。そういう知足安分ぶりには時に憧れすら感じます。引き潮の美学であるシトラスフローラルシプレの代表格・オードロシャスにも、確かに「私はこれでいい」という、一歩引く迷いのない姿に引き寄せられる魅力がありますね。
 

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足りるを知る…にしてはデカすぎると思う400mlボトル

 
 
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