La Parfumerie Tanu

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Cuir de Russie (1924), Les Exclusifs de Chanel EDT

立ち上がり:おお…これ高そうな香りだ。最初からレザー系の香りが強めで背景に柑橘系が少し控えてる感じ
昼:この香りがロシアの革なのか レザー系の香りですが非常に上品な香り
15時位:持久力もあり、この時間でもかなり香ります
夕方:香りは薄れてきてますがここにきて甘い感じも出てきました。でも嫌味じゃない甘さです。高そうな香りですな。
ポラロイドに映ったのは:革のハーフコート着てインナーも全部黒づくめの御方。アジア系ではないな。
 
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キュイールドルシー EDT 75ml 黒いキャップは当世流行のマグネット仕込で、本体につけると
ピシッ!!としかるべき位置に回転し、シャネルのロゴマークがいやでも正面に向くようになっています
 

Tanu's Tip :  

昨日ご紹介したクニーシェ・テンがレザー系香水の金字塔として名高いとしても、一般的にレザー系の頂点と言えば、本来はキャロンのタバブロンか、今回ご紹介するシャネルのキュイールドルシーに相場が決まっているのではないでしょうか。このふたつは、日本のみならず海外でもかなりの憧れをもって語られているのを度々目にしますが、専属調香師を立てながら度重なる処方変更(香りがコロコロ変わる)、廃番⇔復刻とブランドの方向性に逡巡が見られ、ファン離れが進むキャロンに比べ、ブランディングにおいては鉄壁のシャネルは、キャロンに比べたら入手性も高いので、キュイールドルシーは持っている/店頭で見たことがある(試したことがある)けれど、タバブロンは本物を見たことがない(試したことがない)、という方も多いと思います。19世紀末から戦前にかけて「ロシアの革」というお題で生まれた香りは枚挙にいとまがなく、当時「ロシアの革」と「シプレ」はどこのブランドもコンパルソリー物として作っていました。シャネルのキュイールドルシーもその中の一つで、題材的には決して時代の先端を行っていたわけではありませんが、それだけ人気のあった香調なのに、21世紀の現代、特に主要購買層においては好き嫌いの分かれるハードルの高い香調のひとつになりました。
 
シャネルが調香師エルネスト・ボーに制作を依頼した香りで、現在も生産されているのは
・No.5(1921)・No.22(1922)・キュイールドルシー(1924)・ガーデニア(1925)・ボワデジル(1926)の5種で、いずれも昭和の時代は普通にデパートのシャネルカウンターで買えましたが、2007年より5番以外はレ・ゼクスクルジフ・シリーズの1つとして、シャネルの限定店舗で販売されているのはご存知かと思います。5番以外の4種はいずれもパルファム(15ml25,000円)とオードパルファム(75ml25,000円、200ml46,000円、各税抜:2018年2月現在)の2濃度展開がありますが、今回ジェントルマンがポラロイドに映したのは、リニューアルする直前に販売されていたオードトワレ版(~2016、発売当時75ml18,000円、200ml33,000円、各税抜)です。
 
私がなぜキュイールドルシーのような分不相応な高級香水を所有しているか、ここに懺悔を込めて書かせていただきますが、これは後輩からお土産に頂いたものです。当時勤務先の子会社に駐在員として赴任していたM君は、節約のために社宅で自炊をしていると聞いたので、経費の都合でなかなか一時帰国ができないM君に、日本の美味しいものを楽しんでほしいと、四半期ごとに会議出席のために帰国する子会社の社長に、適当にスーパーや生協で取り寄せた日持ちのする食材やお菓子を託していたのですが、赴任終了の際、M君が来し方のお礼にと「帰国前に何か香港でお土産を選びたいのですが、ご希望はありますか」と尋ねてくれた際「香港で地元の人が愛用しているローカルブランドの香水が欲しい」といったところ、そもそも現地文化に融合する気の全くなかったM君から「具体的に、お好きな香りはありますか」と逆に聞かれたので、メールで「クラシック香水が好きです、有名なところではシャネルの昔のとか、でも高いのでなかなか手が出ません」と書いたつもりが「シャネルの昔のとか」でメールが送信されてしまい、それを見たM君はデュッセルドルフ→上海→香港と世界を股にかけた誇りをもって、駐在員の本懐は市場調査、シャネルのクラシック探しに驀進してしまいました。程なく「香港中のシャネルブティックを回りまして、すべて店頭で試香のうえ、一番鎮静作用の高いものを購入して参りました」という連絡が入り、大変なご足労と出費をさせてしまったことに頭を抱えると同時に、なぜそこで「一番鎮静作用の高いもの」を選んでくれたのか、彼の地で思い出す私の姿がよほど興奮気味だったのか理由は尋ねませんでしたが、さらには「ご主人へどうぞ」と、同じシャネルのアンテウスも添えてくれたのは、2016年12月のジェントルマンコーナーで紹介した通りです。 

そういうわけで我が家にやってきたキュイールドルシーは、長年のファンからはご多分に漏れず「昔と香りが変わってしまった」とクラシック香水共通の不満はありますが、昔の香りを知らない幸せなジェントルマンと私にとっては、このゼクスクルシフ版EDTのキュイールドルシーは相当にかぐわしいオリエンタル寄りのフローラルレザーで、シャネル5番の骨格でもあるジャスミン・ローズ・イランイラン(アイリス&カーネーション)に、バーチタールで演出するレザーとタバコ(火をつける前の芳香)と穏やかなウッディノートが、アルデヒドのリフトでふんわりと雲のように体を包みます。5番よりアニマリックな雰囲気が強調されており、ストイックながらどこかエロティックですらある絶妙なバランスは、ドライダウンに向かうにつれてクリーミィな優しいまどろみに落ち着きます。本来は女性ものですが男性がつけても非常に魅力的で、EDTでもかなりの香り持ちに「ここまで作ってくれたら、ブランドのコレクション版でも納得なんだけど」と、昨今色々なメインストリームブランドがメイン商品とは別格のコレクションを投入し、そのはしりのひとつがこのレ・ゼクスクルジフ版ですが、ゼクスクルジフに追加される新作を試しても、価格相応のものが殆どない(と感じる)中、やはりブランドの歴史を背負ったクラシック作品は手を抜けないのだろうと思います。キュイールドルシーをふんだんに浴びたジェントルマンからは、まるで別物のように高級感が漂い、傍で嗅ぐ私は即昇天、自宅にて久々のセクシー成仏を味わいました。ポラロイドに映ったのもレザーに身を包みアウター&インナー全身黒づくめ、性別不詳の御方。言い得て妙ですね。

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ごめんね、M君…