La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Hammam Bouquet (1872)

立ち上がり:むートイレの芳香剤系の香りがする。ラベンダー強い
昼:最初の悪印象とは変わり大分落ちついてきました。少しバラ系の香り出てきたかな
15時位:大分落ち着いてムスク系になってきたかな。
夕方:ほぼ消えた。時間を経るにつれての香りの印象の変化が強いです
ポラロイドに映ったのは:中学の頃は短ランとか来てて30過ぎたら落ちついたスーツ着こなして過去の自分を清算する奴、気に食わねえ!
(この香水が悪いわけではありません)

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ハマンブーケ EDT 100ml 国内販売中
Tanu's Tip :
 
3)買収/廃番で値崩れしたもの
ハマンブーケ
(1872, ペンハリガン、100ml£97/国内定価22,140円⇒実売価格US$46.97)
英コーンウォール州ペンザンスに生まれた床屋のウィリアム・ヘンリー・ペンハリガン(1837-1902)は、1861年、24歳の時に地元ペンザンスで床屋を開業しましたが、立身出世をめざし1869年、32歳でロンドンに上京。ジャーメイン・ストリートにあったトルコ風呂(ハマン)で床屋をしながら翌年の1870年には自身のブランド・ペンハリガンを立ち上げ、風呂屋で自ら調香した香水を売っていました。1874年には風呂屋内のサロン経営者となり業務拡大、ペンハリガン1号店を風呂屋の数件先にオープンします。その後ビクトリア女王のお抱え調香師にまで成り上がり、ビクトリア朝末期には「床屋及び香水商」としてロイヤルワラントまで賜りました。現在はエジンバラ公フィリップとチャールズ皇太子のロイヤルワラントを賜っていますが、いずれも香水商としてではなく「化粧用品商(Manufacturers of toilet requisites)」なので、香水というよりは石鹸とかタルカムパウダーとか、もうちょっと床屋寄りの商売に対しワラントを受けています。ちなみに同じく老舗の英国香水ブランドとして、ペンハリガン創業地のジャーメイン・ストリート89番地に現在も1号店を構える創業1730年のフローリスは、1730年とペンハリガンより140年も老舗な上、ワラントも香水商としてエリザベス女王から最強の御用達を受けているので、日本ではペンハリガンより一馬身格下の扱いですが、本国イギリスではフローリスの方が格上と言えます。ちなみに2017年現在香水商として英国王室からロイヤルワラントを受けているのはフローリス1社だけです。かくいうフローリスも最初のワラント(1820年、ジョージ4世御用達)は櫛で貰ったので、櫛屋と床屋でどっちもどっちですが。

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創業者W・ペンハリガンは床屋出身 コーンウォール州は英国一洪水が多い

ハマンブーケは風呂屋時代にペンハリガンブランドとして最初に登場した香りで、その名の通り、創業者ウィリアム・ペンハリガンのトルコ風呂時代を代弁するような、ハマンに漂う風呂場の香りにインスパイアされたもので、ペンハリガンとしても歴史的名香として別格に扱われています。この風呂場ブーケ、ジェントルマンの言う通り、ぶふぇっ!!とたじろぐ、精油を鼻の下に塗ったかと思うほど生々しいラベンダーのジャブを数発お見舞いされた後、溢れる香りはなんとオロナイン。これにはびっくりしました。もう、試香しているジェントルマンから、溢れるオロナインの香りにタヌ家は髭剃り負けもあかぎれも無縁。そこをローズと表現するのは武士の情けでしょう。ムエットだとラベンダーとベルガモットがだいぶ長く香りますが、肌の上や空中に漂う香りはオロナイン。

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やがてムスキーなパウダリーノートへと変わり「湯気もうもうの風呂場でひげを深剃りした後、ひりつく肌へ丁寧にオロナインを擦り込んで出てきた湯上りの偉い人、仕上げにシッカロール」というのが私の印象です。序破急がきついのはクラシック香水ならではの展開と言えましょう。好きな方にはたまらないと思います。ああいい風呂入った系としては、キャロンのプールアンノムにも通じるものがありますが、ハマンブーケの方が破壊力が高いです。さてジェントルマンのポラロイドには、しっかり深剃りして、ひりつく頬をさすりながら過去の自分をキレイサッパリ清算し、大人の世界を生きる男、そんな人物が映りました。単純にハマンブーケの香りがつけているうちにどんどん変わるから、そういうイメージが浮かんだだけでしょうが、過去は現在に連綿とつながっています。髭を深剃りしてオロナインを塗った位では、そうそう人は変わりません。それはあくまで、外見の話です。物心ついた時からの嗜好性が50になった今も一貫してブレないジェントルマンの人生に「清算」という言葉はありません。
 
2015年、ラルチザンと同じタイミングでプッチに買収されたペンハリガンですが、日本ではそれまでバーニーズなど取扱店舗が限られていたところ、買収のおかげで代理店が大手に変わり、国内の大手百貨店でも手に取ることができるようになりました。百貨店でもボーナスシーズンに化粧品売り場の入口真正面で特設ブースを出すなど、かつてない商戦に出ています。宮様の国に暮らす日本人にとって「王室御用達」という響きは「マリー・アントワネット」と並び好まれる、強いカードの売り文句です。英国王室に愛されるペンハリガンのハマンブーケも、日本では22,140円と大2枚出しても買えませんが、実売価格は4,500円と国内価格の1/5で購入可能。そもそも定価は100ポンドしないのに、ラルチザンの時もお伝えしましたが、国内価格が高すぎると思いますし、出来栄えとしてはもっと気軽に使う類の香りで、実売価格寄りな気がします。
 
閑話休題、販路が限られているはずのメゾンフレグランスも、じわじわとディスカウンターに流出しており、先日パルファム・ヴォルネィをアメリカのディスカウンターサイトで発見した時はちょっとたじろぎました。大手に買収されたわけでもないのに、アメリカの特約店が売れなくて返品もできず、早めに在庫処分したのだと思いますが、高級デパートはそういうことをよくやるのか、以前同じディスカウンターから何かを買った際、ニーマンマーカスの値札がそのまんまついてきたので腰を抜かした事があります。一方、ペンハリガンと同じ王室御用達ブランド、フローリスも家族経営の独立系ブランドなはずなのに、新作以外はディカウンターの常連です。せこい話ですが、私は何か気になる香りがあるときは、まずディスカウンターに流れていないか確認したうえで購入を検討します。
 
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