La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Equipage (1970)

A Gentleman takes Polaroids chapter fourteen : Pizzazz Gentleman
 
立ち上がり: これは・・・・類似のものが見当たらない不思議な香り スパイシーで木の感じするけどなんとも言えない。ちょっとケミカルな感じもします 
昼: 不思議な香りの印象は残るが大分薄くなってきた
15時 腕に鼻近づけるとビニール燃やした後みたいな残り香が。
夕方: ほとんど消えました
ポラロイドに映ったのは: 全身ビニールスーツ着たグラムロックの変な人
 
Tanu's Tip :
 
8月・9月がホヤスペシャルだったので、久しぶりの通常連載に戻ったジェントルマンコーナー、お題もズバリ「イカすジェントルマン」をお届けします。既に死語である「イカす」、米語で言うと(たぶん)Pizzazz、どちらの語感も中々カッコ悪いですが、紳士的なダンディズムというよりはちょっとだけ前のめりで失速感の漂う、微妙に演出過多のカッコよさ、とでも言いましょうか、カッコいいと人が思う前に「カッコいいだろ?俺」と一拍前に同意を求めてくる、そんなイカす香りを選んでみました。 

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エキパージュ ヴィンテージEDT

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エキパージュ EDT 100ml 現行ボトル

エキパージュは、名匠ギィ・ローベルがエルメスの為に作った最初で最後のメンズフレグランス、エルメスとしても初のメンズです。現在日本では終売なのか、エルメスの公式オンラインブティックでは、メンズフレグランスのリストにラインナップされているのはテールドエルメスだけ。確認しに行きたくても、エルメスブティックは敷居が高い(売っているものも高い)。そうやって、結構縁があるようでないようなエルメスですが、2か月前の今頃、ツイリードエルメスの内覧会に参加させていただきました。 紹介する香りはたった1種類なのに、1戸建のギャラリーを贅沢に使用し、若い人向けらしく自撮ブースや撮影ステージ、全身白をまとったイケメンがデザートや飲み物を配って、出入り自由ながら大盛況でした。通常、プレス向けの内覧会では、しっかりしたプレス資料や割と使いでのあるサンプルを配布する事が多いのですが、配布資料としては、入場の際ツイリーの香りのリボンと、帰りにサンプルアトマイザーを受け取っただけで、印刷物のようなものはなかったです。ヴィジュアル重視で、香りのコンセプトまで意識が回る層はターゲットではないのがよくわかります。

香りとしては、ゲラン(モンゲラン)もシャネル(ガブリエル)もそうですが、ツイリーもいわゆる若年層ご贔屓の最大公約数的なフローラル・ムスキー・ウッディ路線で、トップにフレッシュジンジャーを使っているそうですが、既に室内がツイリーのハートノートが充満していてよくわかりませんでしたし、率先してつけたい香りでもありませんでしたが、自分の年齢で使うなら、体温でベースが良く立ち上がる秋冬なら使えそうかな、と思いました。それにしても今年は大御所がどこも最大公約数的な大型商品を突っ込んできて、とにかく若い人しかレーダーにないのは、日本に限った話じゃないんだな、というのがわかりました。ゲランのファンコミュニティですら「もう、世の中は30過ぎたら女じゃない、って言っているのも明白同然ね」と、欧米の女性が嘆いている位なので、メインストリームは若い人にビジュアル重視でお金を使わせ、ニッチ系はロシア中東・中年富裕層に財布のひもを開かせ…というのは昨今のゆるぎない定石となり果てました。インスタグラムなどでニッチ系フレグランスのトレンドを牽引している欧米ブロガーも、見ていると若い人ではなく、殆ど40代以上の方です。むしろ作り手の調香師の方が若い感じです。会場では、腕に覚えのありそうなご年配のゲストも多かったのですが、スタッフが一生懸命「年齢に関係なくお使いいただけます」と説明していたのに少々無理を感じました。

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そんな内覧会に一介の野良狸が直接招待されたわけではなく、当然えらい方の代打だったのですが、なぜあんたそこにいるの的視線を社会人らしい対応で打破すべく「代理できました」「代理です」と、広報の方をお願いしてお話を伺いました。

-物凄い盛況ですね。ここにいるのは、どういう方たちなんですか?

「まあ…色々ですね、インフルエンサーの方とか」

イ、インフルエンサー?ここでインフルエンザ、と社会人らしく親父ギャグを発したら、せっかく醸成した場の和みを粉砕するのでぐっと堪えましたが、目では見たことのある「インフルエンサー」という単語を、人の口から音で聞いたのは初めてでした。その間、奥に居た本国エルメスのスタッフと思しき女性が、何故か私の風体について大絶賛しながら近づいて話を割ってきました。
「あなた、すごくご自分のスタイルがあって素敵ね!とても日本的で、クールだわ!最高!!」
ーありがとうございます、日本的ですか?今日は確かに日本を代表するファストファッション、ユニクロを着ています。
聞くとエルメス専属調香師、クリスティーヌ・ナジェル専属の広報担当だそうですが、専属調香師に専属広報、まるで映画スタッフのうちアンジェリーナ・ジョリーは全部専属スタッフ、みたいな調香師の扱いに、いろんな世界があるもんだ、と驚きながら、グラスシャンパンは下戸で飲めないのでイケメンが配ってくれたデザートを2個3個いただき、30分ほどで失礼しました。
 
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全身白ボーイズがスイーツをふるまう図
 
猛烈に話が脱線しましたが、静と動が共存するウッディ・アロマティックの秀作、と呼ばれているエキパージュですが、現行品は処方も多少現代的になったのか、フレッシュなシトラスに始まり、エルメスらしいレザーノートと抑制のきいたウッディが拡がり、この時代らしさと普遍的な男性の香りが共存する、秀逸なメンズクラシックですが、ジェントルマンには先に手持ちのヴィンテージを香ってもらったからか、荘厳にスタイリッシュな一方で、何かが劣化してなぞのビニール臭を放つミドル以降の香り立ちに、ジェントルマンが写し取ったのは「全身ビニールスーツ着たグラムロックの」しかも「変な人」。グラムロック=変な人、というのも何だか一方的なイメージですが、グラムといえば、下記画像にあげた70年代前半に登場した、ナチュラルでシンプルの極北に存在する、こういうのが典型的なスタイルですので、まあ21世紀の眼で見れば、皆さん十把一絡げにやりすぎで変な人ですね。

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これとか

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これとか

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こういうの

ちなみに、3枚目の左から3番目はブライアン・イーノですが、この数年後、ジギー・スターダストを卒業し、宇宙人から人間になったデヴィッド・ボウイとロキシーを脱退後、アンビエントな世界観を炸裂させていたイーノが合作で「ワルシャワの幻想」を作り、それにガビーンときたピュアディスタンスのヤン・エワルト・フォス社長が30余年後、いよいよ来月世界発売となる新作、ヴァルシャーヴァを作るわけです、がびがびーん。

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