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Sir Irisch Moos / Aramis (1966) | AGTP1 : An Origin of a Gentleman

【ジェントルマンの原点】
 
まず最初は「ジェントルマンの原点」と題して、ブログのジェントルマンコーナーで頻出する、ある意味ジェントルマンのリファレンス香水となっている1本と、学生時代初めて自分のお小遣いで買った1本をご紹介いたします。 
 
Sir Irisch Moos / Sir Irisch Moos (1966) 
 
ではムエット1番、サー・アイリッシュ・モスです。モイラー&ヴィルツは4711(フォーセブンイレブン)でお馴染みのドイツの大衆化粧品会社で、日本ではポマードで有名な柳屋本店が輸入代理店です。日本では「サー・アイリッシュ・モス、ショウブの根と苔」と昭和の香水本が読み方と意味を間違えて紹介しましたが、実際はザー・イリーシュ・モースと読むのと、イリーシュ(Irisch)はドイツ語で「アイリッシュ、アイルランドの」という意味で、アイリス、ショウブの事ではありません。またアイルランドは苔で有名で、全ヨーロッパに生息する苔の約半数がアイルランドに集中して生えているので、苔といえばアイルランド、アイルランドの苔、サー・アイリッシュ・モス、というわけです。いちおう発売から50年を過ぎても廃番になっていないロングセラー品です。でもこんなメロンシロップみたいな緑の苔なんかないですよね!香りも到ってケミカルです。
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さてなんでこんな香りがジェントルマンの原点なのかというと、今から10数年前のある日、ジェントルマンが先ほど登場した昭和の香水本を読んでいて「ショウブの根と苔」と訳されていたサー・アイリッシュ・モスに強烈な興味を持ち、そんなにつけてみたいなら、と買ってあげたんですが、ただの古臭いおっさんメンズ香水臭で、そう悪くもなかったんですよ。ただあまりに重厚で、あまり使わないうちに洗面台に置きっぱなしで何年も経ってしまい、大掃除かなんかの時に私が捨ててしまったんですよ。それで、ジェントルマンコーナーを始めたら、やたらと「サー・アイリッシュ・モスに似ている」とうわ言のように思い出すので、あれがジェントルマンの原点なのか、捨てなきゃよかったな、ともう一度買い直したわけです。そしたら、もはや香水と言っていいのか?と思う位ひどい処方変更で、まあ、よくある話で最初は真面目に作っていてもだんだんドラッグストアラインに零落して、処方も原料も安っぽくなったけれど、長年の愛用者が高齢化して、嗅覚も多少バカになって需要と供給が合致しているのかな、と、こういう嗅いだ瞬間ノックアウトみたいなクラシックフレグランスには、どこかパターン化した「負の段取り」みたいなものを感じます。破壊力的には商店街の個人経営の薬局とか、地方のニュータウンのスーパーなんかで未だに置いている戦後昭和の男性用香水と同じですね。ちなみに今年の4月、ぼんあねさんとオランダへ行ったんですが、デルフトに行った際、マルクト広場の古い薬局でこのサー・アイリッシュ・モスのテスターボトルがあって、初めてリアルに売っているのを見て感動しましたが、置いている場所が悪くて、屋外の店頭でした。その日は曇っていたけど、天気の良い日だったらガンガン陽ざらしですよ。他にもモイラー&ヴィルツ系のクラシック香水、タバックとかトスカ、名前くらい聞いたことあるでしょ?その辺が勢ぞろいでした。結局そこも昭和の薬局みたいな雰囲気だったから、おじいちゃんおばあちゃんが生きてる間は買いに来るから仕方なく置いていて、しかも陽ざらしだろうが何だろうが、一目見てわかるところに置いておくこのユニバーサル仕様。オランダは人にやさしい国だなって思いました。
 
Aramis / Aramis (1966)
 
次はムエット2番、アラミスです。奇しくも、サー・アイリッシュ・モスと同じ1966年に発売されました。
 
アラミスは、1950年代ユースデューで社会現象を起こしたエスティローダーが、ローダー製品とは別ラインで作ったメンズブランドで、デビュー作であるアラミスも大ヒットしました。ローダーはニッチブランドの買収にも力を入れていて、今年の秋、日本橋三越にフレデリックマル、キリアンのストアをオープンして話題になりました。トムフォードもローダー系列です。
 
ジェントルマンが、自分のお金で初めて買ったのがこのアラミスです。大学の卒業旅行で立ち寄った空港の免税店で購入し、最後まで大事に使い切ったそうですが、何故アラミスを選んだか。今みたいにネットで情報が溢れている時代じゃないので、ジェントルマン曰く「免税店における香水の三大購入原則:①免税店で幅を利かせていて ②自分も名前を知っている ③予算内の香り、というのがアラミスだけ、というのが実情だったようで、ちなみにその際お母様へのお土産に買ったのがプワゾンですよ。お母さんにプワゾン。当時ジェントルマンのお母さんは46歳。これはどう考えても親の顔を浮かべる前に香水の三大購入原則で買ったとしか思えないのですが、今でもジェントルマンの実家に行くと、当時新発売のプワゾンが、ほぼ未使用のまま箱に入って本棚の隅に置かれていて、お母さん、嬉しかったんだろうな、大事にとっておいて…と思ったら「ああ、あれ?持って帰っていいわよ」と即答、ちょっと残念でした。まだ同じ場所に置いてあります。
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調香は1959年のカボシャール以降、1960年代から80年代にかけ、エスティローダー系列のヒット作を数多く手がけたベルナール・シャンで、カボシャールのペアフレグランスと言ってもいいくらい近似値です。革っ!苔っ!パチュリっ!といったレザーシプレの塊に、ハーバルアロマティックなノートを重ねた、確かにおっさんだけど臭いおっさんじゃない、責任感の強そうな身持ちの良い男性を彷彿とします。現行品の箱の裏には「男の身体に、アラミス。挑発的で、洗練され、そして男らしい」と書いてあります。言い切ってますね!アラミスも長い年限の中にだいぶ香りが変わったと言われますが、今嗅いでも十分いい男の香りなので、変わってもいい男、というのは心強いですね。
 
次回は「ジェントルマンのお気に入り」と題して、この10年ジェントルマンが愛用した香りを、クラシック編とモダンクラシック編にわけてご紹介します。LPTはクラシック香水、モダンクラシック香水紹介ブログなので、ジェントルマンがポラロイドを撮るのはクラシック香水やクラシックなテイストの作品が多くなるのですが、その中からご愛用の香りが何本も登場しました。
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