La Parfumerie Tanu

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Magnifico 1 Mirto Imperiale / Spezierie Palazzo Vecchio

 
中世の修道院や薬局が所有していた処方箋を、今に蘇らせた素晴らしき香りの水…
2013年までは香水ポータルサイト、プロフィーチェを運営するドゥエッティが輸入代理店で、印象的な紹介文句で、同社イチオシブランドとして販売していたので、ご記憶に新しい方もいらっしゃると思いますが、パラッツォ・ヴェッキオのベネチア貴族をご紹介いたします。
 
「ブランド名はPalazzo Vecchio(パラッツォ・ヴェッキオ) 1966年、ドットール(ドクター)ジョヴァンニ・ディ・マッシモ氏の営むフィレンツェの薬局はアルノ川の氾濫により浸水被害を受けました。浸水してしまった地下室の水抜きをしていた際に、普段立ち入ることのない基礎部分から見たこともない資料を発見したのです。それは、その薬局が中世ルネサンス期から続いていたことを意味する「顧客リスト」と「処方箋」だったのです。顧客リストには、当時のフィレンツェで絶大な権力を握っていた、メディチ家をはじめとする富裕層の名が連ねられており、彼らが独自に依頼をしていた彼らのためだけの香水のレシピが残っていたのです。そのレシピに基づいて香水を復活させた香りがPalazzo Vecchioなのです。ロレンツォやカトリーヌといったメディチ家のために創られた香りのいくつかは、当時のレシピで再現されています。(ドゥエッティ(2013年まで日本代理店)紹介文より引用)
同社の取扱いは2013年にて終了し、現在はジョージオリバーという輸入代理店が取り扱っています。
「メディチ家にも愛され、300年以上にわたり受け継がれた「香りの芸術」 フィレンツェの中心、シニョーリア広場にある薬局。 まるでそこだけ時間が止まったような、中世の面影を残す小さな店舗で、ドクター・マッシモは世界中のお客様を迎えています。 1966年、フィレンツェで中世ルネッサンスのフレグランスのレシピと、メディチ家をはじめとする当時の貴族の顧客リストが発見されました。ドクター・マッシモは、長い歴史に封印されていたそのレシピを元に、様々なフレグランスを現代に甦らせました。
 
スペツェリエ パラッツォ ベッキオは、“フィレンツェの芳香術による化粧水と偉大なる芳香として知られ、手作りのナチュラルバフュームであるというだけでなく、それぞれの香水のネーミングと香りが人々の記憶を呼び起こすアイテムが多いと大評判です。」(ジョージオリバー(現代理店)公式サイトより)
 
閑話休題、こちらはスペツェリエ・パラッツォ・ヴェッキオの公式ウェブサイトから同社の歴史について紹介している一文を箇条書きにしたものです。
 
・スペツィエリエ・パラッツォ・ヴェッキオ薬局は1979年開業
・時が止まったような14世紀に建てられた建物の小さな一室で営業している
・ここで世界中から訪れる顧客に自然化粧品と芸術的な香水を提供している
・マッシモ博士:1965年から薬剤師
・長らくイタリア中で薬局を経営してきたが、自分でハーブの力を利用した自然化粧品を作ることにした
(エルボリステリア:イタリアのハーブ薬局としてはよくある話)
・そのころ世界では合成薬が主流になっていたが、マッシモ博士は1978年家族で田舎に1年間移住し、光線療法(フォトセラピー)と植物学を学び、じっくりと化粧品の処方を作成した
・同時期に「ブックオブハーブ」も著作した
・そしてマッシモ博士は既存の薬局ビジネスから離れる事にし、フィレンツェに戻りスペツェリエ・パラッツォ・ヴェッキオというブランドを創設することにした
・合成原料では得られない、自然原料ならではの薬効に着目した効能確かな化粧品を生みだす博士の熱意は、やがてイタリア国内は勿論、世界中の注目を浴びることに
・博士は愛する街、フィレンツェにインスパイアされ、フレグランス・シリーズ「イ・プロフーミ・ディ・フィレンツェ」を作った
・フレグランスは当時香りの中心地であったフィレンツェのルネッサンス時代、つまりカトリーナ・ディ・メディチと彼女の専属調香師、ムスチアリによる古い本「処方集」にインスピレーションを受けている
・数え切れないほど多種多様なマッシモ博士の香りは「アックア・ミラビーレ・オドローサ(素晴らしい香りの水)®」として知られ、香りにつけられた名前と香りそのものが人々の心を生き生きと刺激するニッチなフレグランスとして好評を博している(スペツェリエ・パラッツォ・ヴェッキオ公式サイトより要約)
 
あれあれ?日本代理店は、ずいぶんはっきりと「当時のレシピを再現」と言いきってくれますが、公式ウェブサイトにはそこまで書いてないんですよね、ていうか、洪水が1966年で、創業が1979年ですからね、その辺の埋め合わせはどうするんでしょうか。
 
それでも私は、代理店にメールして、洪水で出てきた処方をもとに作られている香りはどれですか?と聞いたんですよ。親切な担当の方が、≪1966年、アルノ川の洪水により発見された、ルネッサンス時代の処方をもとに作られた香り≫は以下の通りです。と、
 

・カトリーナ・メディチ

・メディチ家のスパイス

・ダマスクローズ

・フィレンツェの水

・ベネチア貴族(Magnifico 1 Mirto Imperiale)

・帝国の天人花
 
の6種類だと教えてくれました。その中で、ベネチア貴族を選んでみたんですが、私は単なるその辺のタヌキなので、思い出そうにも思い出せませんが、なんでもこの香りは「古代ローマ帝国時代を思い出させる、威厳ある香り」なんだそうで、これがフィレンツェのスペツィエリエ・パラッツォ・ヴェッキオを象徴する香り、と言い切られてしまうと、はあ、そうですか…というしかないでしょうか。まあ、古代ローマ帝国といえば、私の辞書にはせいぜいテルマエロマエくらいしか載ってないんで…この香りを嗅いで、古代ローマ帝国を思い出した方がいらっしゃいましたら、後ほどご連絡ください。
 
香りとしては、第一印象として「やっちまった!」でした。おとなしく、間違いなさそうなだますクローズでも選べばよかった…代理店曰く「フィレンツェの『スペツェリエ パラッツォ ベッキオ』を象徴する歴史ある香り。フレッシュで繊細なウッディの香りと ムスクの香りをベースに、マートル、ローズ、スズラン、ゼラニウム、ラベンダー、ローズマリーなどのフラワーノートを上手く融合した最高に爽やかなフレグランス」ですよ?!でもまあ、こうやって香りの経験値ってのは積まれていくわけで、ギョエー!とえええ~香りや~~~の連続を、日々繰り返しているのが私で、LPTに載っている記事なんてのは、ホンの一握りにすみません。
 
それにしても、ケミカルですよね…まあ、歴史ある香りを、たった25ユーロで、賦香率60%の香油にして、自然化粧品やサプリを売ってる薬局のフィレンツェ土産として売っているものに、それほどの歴史的意義とか本気で期待するのもねえ、欲が深すぎると思います。
これ、確かに濃ゆいので、中栓についた分を腰の両脇とか内腿に点々とつけるだけでお腹いっぱいだと思いますが、ギョエータイムは30分ほどで収まり、次第にきしんだウッディパウダリーなユニセックス系の香りに変化します。オイルなのでそれほど拡散しません。さらに1時間ほど経てば、ここでようやく、すこーし戦前クラシック香水のベースノートに通じるバイブレーションを感じ取ることができます。濃度60%なので、お肌の弱い方は気を付けてくださいね、柔らかい所より足首などの方がいいかもしれません。

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ベネチア貴族 アロマオイル 12ml 3,500円(税抜)

しかし、ルネッサンス時代をほうふつさせるには、何でも「メディチ家に愛された」と言っとけばOKなんですね。通行手形か免罪符みたいな、決めの一言ですが、そもそもメディチ家のお抱え薬局といえば、サンタマリアノヴェッラでしょう。あそこは1612年創業ですから、もう400年以上前にサンタマリア修道院が薬局を併設するってんで色々サポートしたのがメディチ家出身のトスカーナ大公ですし、薬局になるこれまた400年前の1221年、13世紀ですね、ドミニコ会の修道院がフィレンツェにできて、もうそこですでにオーデコロンとか石鹸とか作り始めて、カテリーナ・ディ・メディチが1533年、フランスのアンリ2世にお輿入れする際持たせるっていうんで作った「アックア・ディ・ラ・レッジーナ」、つまり王妃の水なんか、薬局ができる80年前からあるわけで、となるとパラッツォのカトリーナ・メディチも立ち位置微妙になってきちゃう。歴史的バックボーンが、いきなり洪水の後出てきて、エッサホイサブランディングしちゃった、しかもそのあたりどこかに突っ込まれたのか、はたまた最初の代理店が日本で売り出す時とってつけたのか、公式ウェブサイトじゃ洪水の話、出てこないんですよね…そんなお土産香水と、修道院時代から数えて900年近く、そもそもは疫病などに苦しむ人々のために、ドミニコのシスター達が科学的根拠もわからない中、一生懸命トライ&エラーでハーブの効能を届けたまえ、と祈りこめて作り続けたアックアディコローニャとは、格が違う感がありますね。サンタマリアノヴェッラも確かに今はフィレンツェの一大観光スポットで、商品を買うのに手に取れないほど混むって聞いていますが。
フィレンツェに行って、本命のお土産はサンタマリアノヴェッラ、義理みやだったらパラッツォ・ヴェッキオ、というところでどうでしょう?私は遠慮しておきます。