La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Le Galion La Collection (2014)

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ル・ガリオン ラ・コレクシオン 7.5mlx9種 すべてEDP

伝説のブランドを再生するにあたり、まずはオリジナル版の復刻、そして市場への認知が進んだところで、現代の嗜好に親和性の高い、オリジナル作品へのオマージュを込めた新作を発表…と、正統派のビジネスモデルで進んでいるル・ガリオン。とはいえ、普通昔のブランドが蘇ったら、興味は昔の香りに集中するのは当たり前。しかもその蘇生っぷりが、どれだけ往時を髣髴するかがキモになるものの、実は21世紀も16年を経過した現在、継続可能なビジネスで目指すところは、一部のマニア向けに一文字も間違えず博物館的に複製することではなく、どれだけ往時の雰囲気を保ちつつ現代人の鼻にアピールし、長く愛してもらえるかが肝要になるのも当然のこと。再生ル・ガリオンの香りは、それが復刻版か否かはわきに置いて、単なる新作香水シリーズとして香っても、いずれも非常に上質であり、再びこの世で愛されるにふさわしい香りであることが、今回このお試しセット「ラ・コレクシオン」を試してよくわかりました。是非10年後にはさっぱり見かけなくなった、となりませんように、想いを込めて9種すべてを時代順にご紹介します。
 
文中の「蘇生度」は、オリジナルとの比較や完成度ではなく、復刻にあたりどれだけクラシック感を演出出来ているかの目安です。★が多いほどクラシック感が強く、☆が増えるにつれモダンなテイストであるという指標として参考にして下さい。

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お暇なときに画像を拡大して是非ご覧いただきたい、各アイテムの原料一覧。シプレ系にはきちんと天然オークモスが使用されています

 
222 (1930)
再処方:デヴィッド・マルアット
香調:ウッディ・オリエンタル
ヘッドノート:バイオレットフラワー、カシミアウッド
ハートノート:ミルラ、スティラックス、ラベンダー、ホワイトムスク
ベースノート:オークモス、サンダルウッド、バニラ、レザーノート
蘇生度:☆☆☆☆☆
 
ル・ガリオン復活の「お楽しみボックス」、ラ・コレクシオン9種の中で、唯一ポール・ヴァシェ以外の調香師が手掛けた香り、222。ル・ガリオン社の記録にも参考資料としてサンプルボトルが残されていただけで、処方は勿論公式にはル・ガリオン製品として扱われていない、プリンス・ミュラ時代の作品を「ボトル嗅ぎ」して一からやり直し。処方がないだけ案外気楽に腕をふるえたのか、かなりモダンな、いわばルタンスから中東なんちゃってオリエンタルを差し引いた、材木系サンダルウッドのドライなウッディオリエンタル。バイオレットとサンダルウッドが重なると、こうも材木っぽくなるものか、不思議。クラシック香水の序破急はこの際横に置いて、名前の由来もわからないコード番号222、名前からしてアンチパルファムだし、昔の事は考えない方がいい。しかしこれが中々寛げる、重さの全くない鎮静系ウッディなので、男女ともに使いやすく、知的な印象。
 
 
<strong>Sortilege (1936) ※別途解説
再処方:マリー・デュシェーヌ
香調:フローラル・アルデヒド
ヘッドノート:スズラン、ライラック、イランイラン、アルデヒド
ハートノート:エジプシャン・ジャスミン、ミモザ、ナルシス、ターキッシュローズ、アイリス
ベースノート:インドネシアン・サンダルウッド、ベチバー、ラブダナム、ムスク、アンバー
蘇生度:★★★☆☆
 
 
Iris (1937)
再処方:トマス・フォンテーヌ
香調:シングル・フローラル
ヘッドノート:ベルガモット、シトラス、グリーンミモザ、アンブレットシード
ハートノート:アイリス、ロイヤルリリー、ローズ、ガルバナム
ベースノート:アトラスシダー、アンバー、ムスク   
蘇生度:★☆☆☆☆
 
モダンなローズムスクの上に、粉物感を演出するミモザや香りの押しになるロイヤルリリーでわきを固めて、その上にアイリスが鎮座する、非常に着け心地の良いアイリスローズ。アンブレットシードとムスクのダブルムスキー処方で日本女性にもそつなく受けそうな気がします。実は、このアイリスや後述のラ・ローズ、国内メーカーのアザレ・インターナショナルが2000年から毎年限定発売している、天然香料を中心に作られたフレグランスのシリーズ(調香:すべて島崎直樹氏)に雰囲気がよく似ていて、しかも今年5月に出たばかりの2016年版アザレ、エターナル(Eternal)はアイリスこそモチーフではないものの、ローズやヘリオトローブ、ムスクを多用していてこちらもしっとりした粉物感があり、国内の購買層しかターゲットにおいておらず、毎年リピーターの予約だけでほぼ完売という人気の高さから考えて、再生ル・ガリオンも十分日本で普通にいけるんじゃないか、とこんな所でポテンシャルを見出しました。
 

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ヴィンテージ版。シングルフローラルには、アイリス、チュベローズの他にも今回復刻リストに辛くも入らなかった戦前のジャスミン(写真前右)とガーデニア、戦後のスズランとバイオレットがある

 
Tubereuse (1937)
再処方:トマス・フォンテーヌ
香調:シングル・フローラル
ヘッドノート:マンダリン、ガルバナム、ピンクベリー、ペアー
ハートノート:チュベローズ、ローズ、オレンジブロッサム、ラズベリー
ベースノート:シダー、アンバー、ムスク
蘇生度:★☆☆☆☆
 
チュベローズ度はかなり低いが、これがなんと探しても中々見つからない、和くちなしの香調にかなりの近似値をマーク!!ガーデニアではなく「くちなしの香り」がお好きな方には相当おすすめ。フォンテーヌ版再処方の共通ベース、ローズムスクを下地に、こってりさっぱりなクリーミィフローラルが、しっとりとした6月の空を彩る真っ白なくちなしを彷彿させます。って、これチュベローズだよね?まあ、その辺も良い香りだから許してあげてください。ガルバナムやペアーのグリーンなアクセントが、シングルフローラルの退屈さをうまく丸め、くちなしの深い緑の枝葉のように爽快感をもたらしています、ってあれ、チュベローズはどこへやら。じゃあ、同じ年に発売されたガーデニアは一体どんな香りだったのか、ガーデニアも復刻希望。
 
 
Special for Gentlemen (1947)
再処方:デヴィッド・マルアット
香調:オリエンタル・シプレ
ヘッドノート:ベルガモット、シトラス、ラベンダー、ガルバナム
ハートノート:シナモン、アンバー、シスタス・ラブダナム、パチュリ
ベースノート:オークモス、バニラ、カストリウム、オポポナックス
蘇生度:★★★★★
 
ル・ガリオンは戦後を男の香りでスタートします。これは今ならかなり年齢層を高く見積もった、経験値の浅い若い子がつけたら「お父さんのを借りたの?かっこいいわねお父さん」と言われておしまいになりそうな、アロマティックでアンバーの甘さがアクセントのオリエンタルシプレ。ラベンダーががっつり投入されていて、丹頂チックがぐっといい香りになった感じでもあり、父が使っていた、毛のついたチックを思い出しました。おまけに、上記のノートを見てお気づきの方も多いと思いますが、ミドル以降はそう、ジッキー!ジッキー感が出てくるので、クラシックゲランファンにもおすすめ。そういうわけで現代的なイメージはゼロ、クラシック感満載なので、今回コレクシオン中では堂々蘇生度★5つをマーク。加齢臭ってなんだ?それって食えんのか?位の勢いで、いいおじさんにこそ迷いなくつけてほしい。でもまずはおっさん、まめに風呂入って首の後ろをよく石鹸で洗ってください。男性には多くを求めません。清潔が一番です。
 
 
La Rose (1950)
再処方:トマス・フォンテーヌ
香調:シングルフローラル
ヘッドノート:ベルガモット、バイオレットリーフ
ハートノート:ローズ、イランイラン、ウォーターピーチ、ロイヤルリリー
ベースノート:シダー、パチュリ、バニラ、ムスク
蘇生度 ☆☆☆☆☆
 
トマス・フォンテーヌ氏担当の再処方5種は、ベチバーを除けば残り4つは全てフローラルノート、しかもスノッブ以外はシングルフローラル。フローラル4種は大なり小なりローズムスクのベースに則り構成されていますが、これがベースになっているのではないかと確信する位、ローズムスクの雲の塊で出来ているラ・ローズ。このベースが、これ以上いじりようのないくらいきっちり仕上がっており、しかも限りなくモダンなため、彼が担当したフローラル4種はどれも今風。ただ、それじゃ蘇るに当たって土産が足りんとばかり、ラ・ローズは、虹に輝く薔薇色の雲の如きふくよかで多面的な表情を見せる、シングルフローラルと一言で片付けるには勿体ない「象徴としてのローズ」に仕上がっています。コレクシオンの中でフルボトルを買うなら、クラシック感は希薄ですが、現実的に飽きが来ない、出番が多いものをという点ではアイリスかこのラ・ローズをおすすめします。
 
 
Snob (1952)
再処方:トマス・フォンテーヌ
香調:フルーティ・スパイシー・フローラルブーケ
トップノート:マンダリン、ベルガモット、サフラン、アップル
ハートノート:ローズ、ジャスミン、オレンジブロッサム、アイリス
ベースノート:サンダルウッド、シダー、ホワイトムスク
蘇生度:★★☆☆☆
 
ル・ガリオンは母国フランスでは戦前からブランドステイタスが確立していたが、アメリカ上陸は戦後であり、しかもナイトクラブの景品あがりの香水屋という一面があるため、すでにアメリカで成功していたシャネルやジャン・パトゥと比べたら、結構出遅れた方だった。しかもこのスノッブ、オリジナルは廉価版ジョイと言われているくらい、ジャスミンを主軸にしたフローラルブーケ。本国では名の知れた存在であるため、ジョイは欲しいが手が出ないというブルジョワ未満の客が流れないよう、なんとル・ガリオンのアメリカにおけるスノッブという名称の販売権を抑えてしまった。世界一高級な香水(当時)を売ってるブランドにしては、随分ケツの穴の小さいことをしたもんです。というわけで、ガリオン的には戦後最大のヒットとなったスノッブは、アメリカではカブ(Cub=新米、駆け出しの意)と改称せざるを得ませんでしたが、スノッブ名で販売されたアメリカ以外の国向けには、箱に歯ぎしりの聞こえてきそうな切手大のメモが。
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リニューアル版スノッブは、フォンテーヌ担当版共通のモヤっとしたローズムスクに時々ジャスミンが香り、ジューシィなアップルやマンダリンが明るさを添える、華やかで使いやすいフローラルブーケで、リアルなジャスミンの生臭さはほぼない。天然ジャスミン香料の使用量も規制対象なので、ジャスミンが主軸のクラシックは再現が尚更難しい。結果、ジョイとは似ても似つかない結果に。
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Whip (1953)
再処方:デヴィッド・マルアット
香調:シトラス・フローラルシプレ
ヘッドノート:ヴェルデリ・シトラス、カラブリアン・ベルガモット、タラゴン、ラベンダー、カルダモン
ハートノート:ジャスミン、バイオレット、アイリス、ガルバナム
ベースノート:オークモス、ベチバー、パチュリ、レザーノート
蘇生度★★★☆☆
 
ル・ガリオンは戦後の高揚感をシトラスノートに語らせたのか、コレクシオンのラスト2点はいずれもシトラス・シプレ系で、ヴィンテージ品でも名をよく見かけるウィップは、その名のとおり革の鞭がピシピシくるような、かなり明るくパンチの効いたシトラス・シプレ。フローラルの要素はかなり黒子に徹しており、顔を出すのはミドル以降、それまではひたすらレモンをガブリ系です。ラストは不思議とニベア/オロナイン系に落ち着き、ニベアレザーとでもいいましょうか。全体の近似値としてはムッシュー・バルマン(1964/1990)を彷彿としますが、バルマンよりレザーが多少効いているので、新車から降りてきたムッシュー、横に彼女も同席、という雰囲気です。レディスの表記をよく見かけますが、リニューアル版はユニセックス系でしかも6:4でメンズ寄り。ちなみにル・ガリオンのメンズ/ユニセックス物にはすべて天然オークモスが処方されています。やっぱり、クラシック香水の復刻ものですから、その辺は可能な限り最大積載量の投入を期待したいですし、やってくれました。
 
 
Eau Noble (1972)
再処方:マリー・デュシェーヌ
香調:シトラス・レザー・シプレ
ヘッドノート:ベルガモット、シトラス、イタリアン・マンダリン、ガルバナム
ハートノート:ラベンダー、セージ、ゼラニウム
ベースノート:オークモス、インドネシアン・パチュリ、シダーウッド、ムスク
蘇生度:★★★★☆
 
ル・ガリオンでポール・ヴァシェが手掛けた最後の作品となったオー・ノーブル。こちらもヒット作なのと年限が比較的浅いので、値ごろなヴィンテージ品を数多く見かけます。立ち上がりは素直なレモンの効いたシトラスで始まりますが、ウィップと比べてかなりドライ、ガルバナムのビターグリーンやおっさん転びになりがちなラベンダーは控えめで、いたってユニセックスなバランスに仕上がっており、すぐにパチュリやセージなどの草ハッパ系ハーバルノートが主張するドライなレザーノートへと展開します。香りの世界では調香師界の別格本山、エドモン・ルドニツカ師のオーソバージュ(1966)やディオレラ(1972)が全盛、基本「時流を読んで、策を練る」タイプのブランドであるル・ガリオンもやっぱり出しました、シトラス・レザーシプレ。後半は皮手袋で鼻の下を撫でられているかのようにレザーが主張し、ラストはもう、革一面の銀世界。ウィップとは着地が全く異なります。しっかりオークモスのモヤった感もあるし、序破急もきっちり、よって蘇生度はコレクシオン中高めに評価。