La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Van Cleef (1993) and Grand Cinq fragrances

グランサンクとしては最も後発(1906創業)ながら、ハイジュエラーとしては初めてフレグランスを発売した事で一躍有名となり、またセールス的にも香水では事実上グランサンク中最も勢いのあるブランド、ヴァン・クリーフ&アーペルがジェム(1987)に続きレディス香水第3弾として1993年に発売し、創業者の一方の姓をとったヴァン・クリーフです。VCAは本年日本進出40周年、そしてヴァンクリーフは発売20周年ですが、そこでファーストの様に限定版が出るかと思ったら、生前は割と地味な存在だったらしく20周年を待たずに最近あっさり廃番になったようで、イギリスの正規取扱店などでは今の所はまだ現行商品として購入出来るものの、最近公式ウェブサイトから姿を消しました。

2007年よりVCA香水部門はランバン、ヴェイユ等も手がけ、今期空前の利益を上げた大手ファッション・フレグランス系香水会社、インターパルファムがブランドを取得し、日本ではブルーベルが代理店なので、このヴァン・クリーフも発売当時は普通に日本でも入手できました。現在*の国内におけるVCAはレディスだとファースト(1976、EDTのみ)、ファースト・プルミエブーケ、フェアリー(EDT/EDP)、オリエンスを展開しています。なお販路限定の高級ライン、コレクシオン・エクストラオーディネールシリーズは日本未発売です。*2013年1月時点

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ヴァンクリーフEDP100ml。ボトルがちょっと鋼鉄ジーグ(1975、右)っぽい

グランサンク香水の究極の共通点は「ゴージャス」。まあ、扱っている商品がゴージャスだから、そうならざるを得ないのですが、さすが近作はおしなべて時流に乗った軽口になったものの、90年代をピークに、その前後に発売された香水の「濃ゆい」事と言ったらお話の外で、試験官に吹いたら底に沈むのではないかと思われるくらい濃厚かつ華やかなフロリエンタルが多く、海外では「爆弾系(Bombshell)」というジャンルにすっぽり入ります。勿論ボトルも足元落下注意の重量級、物量の多さに面食らうユーザーも多く、特に巨匠セルジュ・マンソー作であるヴァンクリーフのボトルは悪趣味との声が多いのが「ゴージャスと下品は紙一重」の法則がここにも働いています。やはり、本業の宝飾品と違い、一般平民が買える価格でブランドイメージを凝縮するのは中々難しい上、実際の取扱いはファッションフレグランス系香水会社が行っているので、MDCIのようにキャップをリモージュ焼きの彫刻にしたり(それも紙一重だが)、採算度外視と言う訳にはいきません。

香りとしてのヴァンクリーフは、フレンチ・クラシックの王道と大柄系の汽水域にいるようなフロリエンタルで、雑に香れば90年代大柄系ですが、今にも爆発しそうな若干の煽情感を持ちながらも皮一枚の所で一歩引いたクラシックな気品を兼ね備え、丁寧に香りの人物像を考えられて作られた感じがします。トップに広がるなベルガモットやオレンジなど苦みばしった柑橘類の果皮からはじけるビタースイートな爽やかさにガルバナムが重なり、このグリーンがかったビタースイートが消えそうで消えない中に、ずっしりと、かつ透明度も高い(そこがカラットの大きな宝石っぽいのだろうか)フロリエンタルが奥座敷の襖を開けるがごとく登場、そしてヘリオトローブとカーネーションが効いたどフランスなパウダリー様の表層が、バニラやトンカビーンなど直球オリエンタルベースに重なり、王道らしい香りの起承転結を存分に楽しめます。またこの時代のフロリエンタルにしては消え入り方が大変潔く綺麗で、衣服に殆ど残香がたまりませんので、次に別の香りを重ねても、一般的な大柄系のように「うらあぁぁっ」と重ねた香りを押しのけて甦る様なことがありません。暖かみはあるけれど、面食らう程肉感的ではなく、結構トップの爽やかさが楽しめるので、20年前の流行を懐かしみつつもクラシック感も楽しみたい向きにはお勧めです。

ところで、ヴァンクリーフ&アーペルというメゾン名で、香水名がヴァンクリーフ。アーペルは外れてしまって良かったんでしょうか。確かにVCAはヴァンクリーフから名前がスタートしているとはいえ、実際の商売もデザインもアーペル家側が中心で、ジュエリーのシリーズでも「アーペルコレクション」というのがある位なので、本業の方では実の所微妙に影の薄いヴァンクリーフ家。ちょっとここで名前を残しておこうか、という所だったのでしょうか。でも廃番。ホール&オーツのジョン・オーツ、チャゲ&飛鳥のチャゲみたいなものでしょうか。

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値崩れがディープ過ぎて、そろそろアフォーダブル系に入れられちゃいそうなヴァンクリーフ

注:グランサンク…「ヴァンドームサンク」とも呼ばれ、パリのヴァンドーム広場に出店している高級宝飾店5店のこと。創業順にメレリオ・ディ・メレー(1613年)、ショーメ(1780年)、モーブッサン(1827年)、ブシュロン(1858年)、ヴァンクリーフ&アーペル(1906年)を指す。VCAの次にフレグランスを発売し、かつセールス的にも成功したのがブシュロンで、初出ブシュロン(1988)を皮切りにブシュロンとジャイプール(1994)が2大看板となり、各々のテイク違いが延々と発売されています。一方ショーメは2000年前後に数点発売するが現在はすべて廃番、モーブッサンはモーブッサン(2000)を皮切りに年1点のペースで地味に新作を発売するも出ては廃番の繰返し。最古参メレリオ・ディ・メレーに至ってはフレグランス進出せず。

first post : 30 Jan 2013

追記 Mar.2016

廃番のためVCA公式ウェブサイトにはラインナップされていませんが、欧米のオンラインショップではまだ普通に在庫品として見かけます。この時代によくある香りなのと、90年代ものって今一番人気が底なのかもしれませんが、ディスカウンターでは見るたびに値崩れしています。ヴァンクリの香りはファッション系としては丁寧に作られているものが多く、好みは別として頑張ってるなと思う一方、香水部門をインターパルファムに任せているからか押しなべてディープに値崩れしてしまい、グランサンクなのに香水だったら3,000円で買えちゃうよ、ということもしばしば。ヴァンクリーフだって最低流通価格は私が入手した頃の半額近いです。何だか残念です。