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La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Chemists in a British small town : 5. And then

11. UK Chemists
そして予期せぬ出来事に店主感激
 
古い薬局に行けば、お宝が待っているんじゃないか?倉庫でデッドストック香水が眠っているのでは?昔の広告や空き瓶、残ってないかな?正直なところ、薬局香水について期待を膨らませすぎた今回の取材でしたが、良くも悪くも何が待っているのか行くまでわからない、そして最後は人の情けが身に沁みるというのが海外取材の妙味というものです。
 
バクストンでの取材を終えた翌日、ウィットネル氏と地元のタイズウェル村を散歩に出かけ、曇り時々小雨のなか村のハイストリートを歩いていると、ご夫妻が週二回食パンを買っているベーカリーが出てきました。お店の看板であるポークパイをはじめ美味しそうなパイやデニッシュなど、店頭に並ぶパンはすべて手作り、オーナーのキャロルさんは毎日午前2時に起きてパンの仕込むを始めるそうで、きさくに「うちの調理場、見る?」とバックヤードへ案内して下さり巨大なニーダーやオーブンをひとつひとつ見せてくれました。私が店頭のパンを見ている間、ウィットネル氏は顔なじみのキャロルさんに今回の薬局取材の話をしてくれたようで、お二人が話し終わるとキャロルさんが突如「うちに、死んだおばあちゃんの古い香水が沢山あるんだけど、見る?」と私に声をかけてくれました。
 
・・・パン屋さんで、香水?今50代後半くらいに見えるキャロルさんのおばあさんといったら、日本で言ったら明治生まれかな・・・古い香水って、生きてた時に使ってたボトルを大事にとってあるのかな・・・いいお孫さんだなあ。
 
「ちょっとはずすわねー、30分位かなー」
 
他の店員さんに一声かけた後、キャロルさんはベーカリーの数件裏にあるご自宅に私達を招待してくれました。「ちょっと待っててね」と居間に通されて程なくしてキャロルさんが持ってきたのは、小さなスーツケースでした。
 
「これなんだけど」
 
スーツケースをあけると、まるでパズルのようにぎっしり、古い香水が収まっていました。それも、同じものが数個ずつ、殆ど手付かずの新品ばかりでした。
ひとつひとつスーツケースから取り出した香水は、オードジョイ2箱、ミツコのパルファム60mlが2箱、ミツコと5番のトワレが各2、3箱、ファースト(VC&A)の70年代パッケージのトワレが1箱、そこに何故か時代の違うエリザベス・テイラーのパッションが1箱・・・総数ざっと10数箱、特にミツコは2箱とも未開栓のままで、きちんと外箱に収まり少しも蒸発していませんでした。パッション以外はすべて明らかにキャロルさんのお婆さんのストック香水のようでした。
 
-てっきり、おばあちゃんがお使いになっていたボトルをそのまま見せてくださるのかと思いました。それにしてもすごいコレクションですね。王道のクラシック香水ばっかりです。
「おばあちゃんは40年位前に亡くなったんだけどね」
-特にこのミツコ、すごいですね。60mlサイズって今もう作ってないんですよ。こんなに状態の良いヴィンテージ、はじめて見ました。詳しくはわかりませんがこれ、50年近く前のものですよね。一体おばあちゃん、何者?
「好きなの持ってって」
・・・え?
ミツコ、5番、ジョイと王道のどフランス香水好きなおばあちゃんが、これだけボトルをキープしておきながら遂に手ずから金線を切ることなく神に召されたのは本当に残念ですが、それをいとも簡単に初対面の日本人に、くれてしまっていいのか?突然の申し出に気が動転してしまいました。
-そんなおばあちゃんの形見、いただけませんよ!申し訳ないですよ!
「いいのよ、私使わないから。帰りの荷物にならないんだったら、何個でもいいわ、好きなの持ってって」
何個でも・・・さすがにそれはご厚意とはいえ申し訳ないので、ヴィンテージのファーストとミツコで迷いましたが、超弩級サイズのミツコを1箱頂戴することにしました。「はいどうぞ」その辺にあった生協のレジ袋にぽいっとミツコを入れ手渡してくれた後、キャロルさんが取り出した香水をスーツケースに片付けようとしたのですが「いったいどんな風に入っていたのかしら・・・さっぱり納まらないわ」スーツケースから取り出した香水は、ミツコがひとつ減ったにも関わらず、いくら向きを変えてもスーツケースに納まらなくなったのが不思議でした。

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キャロルさんからいただいたミツコ、現在は製造されていない60mlサイズのパルファム。圧巻

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底には品質表示ラベルと思しきシールが。まだバーコード表記の無い時代

 
「それじゃ、元気でね」とキャロルさんは何事も無かったようにお店に戻り、突然の出来事と感謝で胸がいっぱいの私は、ミツコを小脇に抱えながら散歩を続けました。
 
次回、いよいよ英国地方薬局取材記念ボトルレビュー、乞うご期待!