La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Coriandre (1973) limited edition parfum in 2009

Coriandre (1973) limited edition parfum in 2009

かつて一世を風靡した香水で、現在も販売中のものは多々ありますが、メーカーの相次ぐ買収と売却、処方のダウングレードで、名前と形は残っているけれど、既にそれは「亡骸を嗅ぐ」行為でしかないクラシック香水に出くわす時は、嘆きにも近い落胆を覚えます。最近では、度重なる「減量処方」に待ったをかけて、一度は手放した処方を買い直したり(ジャン・シャルル・ブロッソーなど)、新たな買収をきっかけに今一度高級な原料でやり直し、値崩れた価格と評価をぐっと底上げするメーカー(ウビガン、リュバン、ジャン・パトウなど)もありますが、本当のファンなら相応の対価を払ってでもオリジナルに忠実な香りであって欲しいと願っている声には耳を傾けず、安く作って結局昔のファンには嘆かれ、新たな顧客もつかめず、結果としてドラッグストアの投げ売り香水から這い上がれないクラシック香水には、過去の栄光が輝けば輝くほど暗い影が落ちています。
  
今年発売40年となるコリアンドルは、ご主人のジャンが経営者、調香師一家に生まれた奥様のジャクリーヌが調香師という昭和版パルファム・ド・ニコライのような会社、ジャン・クチュリエの代表作で、創業40年の歴史で発売したのは10種類もなく、屋台骨はこのコリアンドルだけ。日本ではオオトモが代理店で1990年代までは流通していましたが、オオトモ倒産以降は日本未発売です。本国フランスではジャン・クチュリエというメーカーが度々買収され、近年では2005年から2009年まで親会社だったコスモプロッド(モンタナなどを抱える)から新たにレオナールの世界ライセンスを持つフランスのVAGディストリビューションが親会社となり、割と真面目な公式ウェブサイトも立ち上がりましたが、フランス本国でのライセンスは、ヤードリー、ダナ(カヌーのみ)、4711など、ドラッグストア・ノスタルジアばかりで、公式オンラインショップで既に値引販売している様に不安を覚えながらも、どれだけ香りが「痩せて」いるのか興味があり、せめてパルファムならまだましかと思い、2009年にVAGからの再スタートを記念して限定発売されたパルファム(9mlで35ドル/定価45ドル)と、発売20周年の1993年に追加となった、メタルボディのパルファンドトワレ(サンプル)を入手してみました。この安さが曲者です。
  
香りとしては、徹頭徹尾リニアにシャープなグリーン・シプレで、アルデヒドとアンジェリカ、オレンジフラワーそしてコリアンダー(とはいえ、スパイスのコリアンダーほど明確な輪郭がない)がはじけ、その後展開なく、ずーっとシャープなままローズよりのグリーン・シプレな印象がいつまでも続きます。とにかく丸みが一切なく、いつまでも香りの膨らみというものが出てこずに刺すようにシャープで、パチュリやオークモス、サンダルウッドといったベース原料の深みが体感できません(勿論原料に天然オークモスは使われていない)。元来、コリアンドルはこの継続する摩訶不思議なシャープネスがウリだとは分かっているのですが、オリジナルを嗅いだ事がなくても、これほどシャバい香りが延々と続くパルファムでは「ああ、痩せちゃったんだな…」と感じても致し方ない所だと思います。むしろPDTの方がリニア感が控えめでふんわり香り、スタイリッシュなグリーン・フローラル・シプレのバランスが良かったので、同じ亡骸を嗅ぐなら、まだ実用に値するPDTをお奨めします。
  
入手したパルファムが妙に安く、ピエール・ディナンデザインのボトルにしつらえた孔雀石のキャップは軽量プラスチックに変わり、ペラいボール紙で出来た外箱の中でカラカラ動くボトルに、第三国で流通している偽物かと思い、写真をVAGに送った所、正真正銘の本物だったので、逆に落胆の度合いが増しました。「フランスではいまだに根強い人気があってセールスもいいんだよ。日本では中々難しいと思うけど、気に入ってくれると嬉しいな」そう添えてくれた親切な広報の方には申し訳ないですが、一度全部廃番にして、1本200ユーロでも300ユーロでもいいから、可能な限り原料を見直して、オリジナルに忠実なコリアンドルのパルファムを出し直して、販路限定で返り咲いて欲しい。そう希望します。

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このチープなボトル、サンプル?いえいえ、本製品です。しかもパルファム。嗚呼残念