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La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Passion (1983)

「情熱」の名を持つパッションは、アニック・グタールが自分のために調香したものを製品化した最初の香りで、他のたくさんの香り同様現在の専属調香師、イザベル・ドワイヤンとの共作です。前出のウール・エクスキース(1984)と同じく、発売後30余年を経たパッションもヨーロッパではロングセラーの香りですが、現在はオードパルファム 100mlの1種類に集約され、日本でも数年前に販売終了となりました。


情熱とは、自分の胸を掻き毟って内なる思いをさらけ出す事ではなく、何事も無いかのようなたおやかな微笑みの中に輝く、美しいその瞳から溢れ出て止まらないものなのだ、と教えてくれるような香り、パッションは、チュベローズを主軸とした濃厚ながらも主張のすぎる事が無い、グリーンフローラルシプレです。繊細な大人のガーリーテイスト炸裂のボトルに納められたアニックの香りの中で「パッション」を冠する香りは二つ、このパッションとガルデニア・パッション(1989)があり、さらにチュベローズを主軸とした香りはこの2つに加え、そのものずばりチュベローズ(1984)と3つある事から、この時代のアニックは、これから昇っていく自分のとめどない情熱を、彼女が魅せられた肉感的なチュベローズに幾度も形を変えて語らせていた気がします。ただ、チュベローズ香のベンチマークであるフラカ(1948)と比べたら、パッションはショッキングピンク一色ではなく、色味的には上気した肉色で目を凝らすとサーモンピンクとペールグリーンのつづれ織りといった風情で、イランイランとジャスミンといったむせかえるような南国の妖艶な花々と重ね合わせたチュベローズを、処女作フォラヴリル(1981)で初めて用いたトマトリーフの青々としたフレッシュなグリーンが前面から、こっくりとしたオークモスが後方からしっかり抱き抱えています。ここでもう少しチュベローズの脂っぽさや中心のフローラルが主張すると、オリジナル版クロエのような、一気に時代を感じさせる香調になりますが、トマトリーフの青臭さが時代を前へと進ませているので、古臭くはならずタイムレス・クラシックに昇華しています。

余談ですが、フランス女優界の別格本山、イザベル・アジャーニが、ウール・エクスキースとパッションを、アニック・グタールがこれ程メジャーになるずっと前から何十年も愛用しており、しかも重ねづけをする事でなんとも挑発的な抗いがたい香りになるのだ、と言っていたので、早速試してみたところがあけてびっくり、「…あれ、グランダムール?」そう、アニック晩年の傑作、グランダムール(1996)のパイロット版とでも言うべき非常に煽情的かつ包容力のある濃密なフローラルに変幻し、しかもレイヤーで出現している香りなので当のグランダムール1本よりも肌の上で複雑な表情を描くので、さすが別格本山の嗅覚は違うな、とただでさえイザベル・アジャーニは映画の中で恐ろしいのに、なお一層恐れ入った次第です。

パッションEDP100ml 旧ボトル