La Parfumerie Tanu

- an Imaginary Haute Parfumerie living in your Heart -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -


Sublime (1992), original parfum, and the latest EDP/EDT version

 

スブリーム パルファム(左)、現行EDP(右)

1998年、御年66歳でパトゥの専属を引退したケルレオ師ですが、パトゥに残した最後の単独調香レディス向け作品が、ここ日本でもその黄色いパッケージや蕾のような愛らしいボトルがデパートの香水売り場やファッション誌を賑わしたのも記憶に新しい、スブリームです。ジャン・パトゥ日本再上陸に当たり、惜しくもラインナップからはずれましたが、発売から20年ちょっとで、パトゥがいったん日本撤退するまでは現行品として扱いがあったので、現在もご愛用のかたも多いのではないでしょうか。

P&G時代はスブリームや買収後のシラデザンドはもちろん、ジョイもEDTなどはイギリスのP&G工場で生産されていましたが、デザイナーズ・フレグランス買収後は蕾のボトルからジョイやミルと同じパトゥ汎用ボトルにて継続販売されています。パルファムはなくEDPとEDTの2濃度展開で、かつ価格帯も他の二つと比べ1/4ほど安く(若年層向け新作、ジョイ・フォーエヴァーはジョイやミルと同価格)、パトゥの一般品ではスブリームだけ値段を下げているのはどういう戦略なのか、買収後は原料と生産拠点を見直して一気に原料コストが上がったと現在の5代目専属調香師、トマス・フォンテーヌ氏が豪語していただけに少々気になります。

スブリームが発売された1992年という年は、時代が80年代の香害系の反動でシアーなナチュラ系(実のところ、この時代から炸裂する透明感や爽やかさがなかなかに人工的で、往年の香水ファンにとってはここからが斜陽の時代なのですが)が市場を塗り替える手前で出てきたフロリエンタル系が全盛で、大体どこのブランドも大なり小なりフロリエンタル系の新作で勝負をかけ、この時代の顔と言うべき代表作がいくつも生まれ、海外ではなおも現役続投中のものも多いのですが、残念なことにここ日本ではバブル期とまるかぶりしてしまい、フロリエンタルの少し手前で社会現象となったプワゾンやココと時代を共有しているために、40代以上の方にとっては主張の強いフロリエンタル=バブル臭と脊髄反射してしまうのが現実といえましょう。

わかば流通品。お使いになったことのある方も多いのでは

それでは、さすがに日本では扱い銘柄から外されただけはある、パトゥを背負えない香りかというと決してそんなことはありません。そこはさすが名匠ケルレオ師、一過性の流行を追った有象無象の類似品とは訳が違います。ミルと同じくスブリームも、バックボーンにはしっかりと、ケルレオ師の作品に特徴的な、近代香水史の一大絵巻をひしと感じる壮大な時の流れを携えています。酸味の控えめなタンジェリンとコリアンダーのバーストが一段落すると、じわりじわりと角のないローズ、ジャスミン、オレンジブロッサムといった王道のフローラルが、絶妙な塩梅で留まりながら、オークモスにやんわりとふくよかに薫るコモロイランイランとサンダルウッド、そして調香にはありませんが甘美なバニラが、何者にも変えがたいほど美しく、そして肌と一体になり心を暖めながら輝きます。数あるフロリエンタル系の中では抑制のきいた深く上品な香り方が、この系統にありがちな、絶えず自分への視線を集めずにはいられないような主張はしません。確かにパッケージカラーの華やかな黄色を眼下に感じますが、射すような黄色ではなく心をほぐす陽光の暖かさで、ミドル以降は意識してヴォリュームを抑えて歌うアルトソプラノのようです。近いところで言えば、キャロンのモンテーニュ(1986、廃番)と同じような温かさ、華やかな中にも寛げる親しみやすさを感じます。ちなみに、つとめて足より上にはつけず、内腿や膝裏、足首からふんわりと上がってくる香気をまとうのが、今この時代にスブリームをはじめとするフロリエンタル系の香りを流行遅れに感じさせないコツです。季節は秋冬、春のお彼岸が過ぎたらお休みするのが良いでしょう。個人的には、超然とした香りの多いケルレオ師の作品ではこのスブリームが一番好きで、スブリームにも受け入れられている気がします。

今回、手元に集まったP&G買収前の国内(わかば)流通パルファムと現在のデザイナーズ・フレグランス買収後のEDP及びEDTを香り比べてみました。各々濃度が違うので、正確な比較対象にはなりませんが、参考までにお伝えすると、パルファムと現行EDPは印象がかなり近くどちらもバニラサンダルウッドの残香を長らく楽しめる純血フロリエンタル調ですが、EDTはグレープフルーツ様の果皮が弾ける立ち上がり、かつ全体的にかなりライトな仕上がりで、パルファム、EDPとは大分印象が違い、物足りなさすら感じます。一番トータルバランスのよいのは現行EDPで、新しい親会社から大事に扱われているのがわかり、往年のファンも安心して最新作をお楽しみいただけると思いますが、濃度で迷ったらEDPをおすすめします。

デザイナーズ・フレグランスに買収される少し前から、ボトルがこの汎用型に変わりました。