La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Spirituelle (2014), parfum extrait and EDP


毎年秋が深まると、一度でも直販でディヴィーヌの製品を購入した方には、ご丁寧に封書で新作のご案内が届きます。その「新作」は、封を切らずともポストを開けた時点で既にふんふんと薫ってきて、年に一度のお便りに、その香りがどんなものであろうと心が踊る、この芳しい便りがはるばるディナールから届くと、ああ今年もまもなく終わり、一年の締め括りにはディヴィーヌの新しい香りとともに…という、このご時世なんとも奥ゆかしく、だがしかし最大限に顧客の財布の紐を緩ませることこの上ない新作発表会に、今年もまんまとひっかかってしまいました。その名も堂々スピリチュエルです。

スピリチュエルはディヴィーヌの一番人気、ランスピラトゥリスも手掛けたリシャール・イバヌが調香し、レテルネル・フェミナン(2011、ディヴィーヌのパルファムバージョン)、ラムスール(2012)、ランスピラトゥリス(2013)のパルファムが後追いで発売されたのと違い、最初からパルファムとオードパルファムの2濃度でスタートしました。3本の「後追い」パルファムがいずれも良くできていたので、最初からパルファムのフラコンを入手し、EDPはサンプルで頂戴しました。ブランドとしては11作目、パルファムを除く純粋なレディスとしては6年ぶり6作目となります。

紹介文によると「新世界に瞳を輝かせ、飛び込んでいく冒険心に満ち溢れた気骨の女性、それがスピリチュエル」≒女は度胸とガッツだぜ、まるで100年前の発展家女性のようです。「ローズドメとターキッシュローズ・アブソルートが花開く、アンバー、ムスク、インセンスとのハーモニーを奏でるパウダリー・フローラル」パウダリー、粉物!とくれば、こちらの瞳もギラギラ輝いて送られてきたムエットもたいして嗅がずに飛び付いてしまいましたが、相変わらず品格と言う言葉が似合うディヴィーヌらしい質の良さは存分に醸し出すものの、言うほどパウダリーな表情は感じず、終始そこはかとない固さを感じるフロリエンタルで、第一印象は1980年代から90年代初頭に世を圧倒したいわゆる大柄系…ココ(1984/ジャック・ポルジュ作)やプワゾン(1985/エドゥワール・フルシェ作)といった過積載スパイシーフロリエンタルや、パリ(YSL/1983)やビューティフル(1985)に代表されるソフィア・グロスマン系露光過多フローラル、続くパロマピカソ(1984/フランソワ・ボクリ作)、モンタナ・パルファムドポー(1986/ジャン・ギシャール作、後にエドゥワール・フルシェ処方変更)、ノウイング(1988/ジャン・ケルレオ作)のような硬質で鳩胸出尻のキリキリロージーシプレから浮かび上がる仇姿から、ひよこが横一列に止まれるような分厚い肩パッドを取り除き、丁寧に仕立て直した上品な紫系のペンシルスーツのようで、ハッタリの利いた名前ほど堂々スピリチュエルでもありません。この紫感が、日本で言うところのバブル期的イケイケ紫ではなく、それこそスピリチュエルのパッケージカラーである「もやっとした暗い紫」で、パルファムという賦香率も手伝い、音量を意図的にぐっと絞った声で、肌の傍でのみ語ります。たちあがりの山椒やピンクペッパーコーンが中核のローズに固さをもたらし、ベースのラブダナムやアンバー、ムスクが渾然一体に包み込んで、気骨とかアドベンチャーという鼻息とは対極プラス30度位にいそうな、気持ちはあるけど身持ちの良さが冒険心に水を差していそうな女性像が浮かびます。真性大柄系に出会ったら「あんた、なにそのなで肩。やる気あんの」と足を引っ掻けられて終わりでしょう。しかし21世紀もまもなく15年目に突入するという今、確実に居場所があるのはスピリチュエルのような肩パッド抜きの現代版フロリエンタルですので、あの時代のイメージをちらつかせつつも古さや新しさを感じさせない、はずさないロージーフロリエンタルをお探しでしたらおすすめです。

パルファムとEDPを比較すると、EDPはよりローズとアンバーがくっきりとしており、パルファムの持つもやっとした紫感よりクリアかつ若干華やかな印象で、持続も双方さほど変わらずあまり長くないので、メリハリと言う点ではEDP、くぐもった完成美を楽しむならパルファムが良いでしょう。

30mlスプレィなら€59、50mlフラコンEDPでも€72で買えてしまうディヴィーヌの香りを手にすると、だるまさんが転んだ的に相場高騰がとどまるところを知らないぼったくりニッチ・フレグランス市場で、正邪峻別とまでは言わないまでも、適正価格とはなにか、正しい香りとはなにかと思唯せずにはいられません。宣伝手段は手紙だけ、されどオンラインならワールドワイド、店まで来れたら量り売り。SNSなし、メルマガなし、クーポンなし、中東ロシア展開なしのディヴィーヌ。どうぞ、このまま地味に続けて下さい。

EDPボトル画像提供:パルファム・ディヴィーヌ
ブランドサイト(オンラインショップ)⇒ http://www.divine.fr/  (PC対応のみ)