La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Parfums Volnay, Perlerette (1925)

 
ヴォルネィは1919年にいわゆる当時の「発展家」女性ジェルメーヌ・マデリーヌ・デュヴァルが、のちのフランス第4共和制最後の大統領となる政治家、ルネ・コティの元で働いていたルネ・デュヴァルとフォーリンラヴ後創業し、香水の黄金時代である1920年代に大きく開花した香水ブランドで、当時は西欧はもちろん南北米にまで販路を広げた一大企業でした。創業時はコティと同じくパリ近郊のシュレンヌに本社工場を持ち、そこからパリに出店しており、さぞ当時のシュレンヌは妙香に溢れていたか、想像に難くありません。
そんな大成功のヴォルネィも栄枯盛衰の憂き目にあい、1948年の発売を最後に世の中から消失してしまいますが、ここからがコンサル会社の影がチラチラ見える「消えたブランド復興ビジネスモデル・プラン1」とでもいうべきストーリーが始まります。1)偶然目に止まった昔の広告に奥さんがフォーリンラヴ 2)気になった旦那さんが調べてみたら自分が創業者のひ孫で 3)そしたら過去の処方もどんどん出て来て 4)おまけに旦那さんはディプティック出身の香水業界人 5)創業者夫婦の愛に導かれ夫婦で力を合わせて現代に再現…あれえ?近年日本にも上陸した、オリザ・ルイ・ルグランの復刻チームもディプティック出身だったよね?ディプティックに勤めると、栄枯盛衰で消えたブランドがそんなに眩しく目に映るのか?一昔前は、洪水で水浸しになった小屋から修道院のレシピがざっくざく・・・というのが流行っていましたが、ここ数年はグロスミスやヴォルネィなど、たまたま見惚れた古い香水が自分の先祖が作っていたというストーリーが、欧米の加熱する先祖探しブーム(イギリスでは、地元の教会の洗礼名簿などをたどり、自力で地道に調べている人や、もし先祖調査の問合せが来たら協力する、と公益団体みたいのに連絡先を登録している人も多いが、ある日突然知らない人からメールが来て、どこどこで苗字から調べたんだが私と先祖が一緒のようでした、協力してもらえませんか?という内容で、メールの内容からして心当たりがあったりして協力の返事をすると「詳しく家計図を作ったのですが、25ポンドの年間契約でPCからの閲覧が可能です」とセールスにつなげられてしまうケースもあり、好奇心で釣るオンラインビジネスに発展している)にシンクロして心地よいのかもしれません。
 
そんな新生ヴォルネィですが、復活にあたり5種類の香りからスタートすることになりました。家督のレシピも見つかり、当時は人気ブランドだったので当時の写真や広告も色々出てきて、屋台骨だったペールレットをはじめとする4種の復刻と新作1種を若い調香師に行わせたのですが、全種試香した感想としては、総体的には透明感と拡散性を従えた現代的な香り立ちで、クラシック感を前面に出さず、純粋な復刻というよりはあくまで時代に即応したオリジナルに基づいた新処方と見て間違いはなく、その中で本当に新しいもの、一応クラシックなもの、と緩急をつけてラインナップしている感じです。そういうわけで、ヴォルネィはモダン・フレグランスの章で取り扱うことにして、お奨めの3種をご紹介します。
 
Perlerette (1925)
 
ヴォルネィを代表する香りを復刻したペールレットは、プレスキットで謳われている「円やかで柔らかなフローラル・パウダリー」というイメージとは裏腹に、パウダリーはパウダリーでも立ち上がりがガツンとくる超硬質なアイリスと苦いグレープフルーツ様のシトラスノートでスタートし、この硬さにぎゃっと驚くのもつかのま、あっという間にビターアイリスは消失し、次に現れるのが明らかにクラシック香水の復刻とは別次元にいる、近年のジャン・パトゥやMDCIに頻発するピーチシプレ系のフルーティフローラルで、大変21世紀らしい香調に変化するのが「名香の現代的解釈、一般例」でしょうか。香りの持続も包み込まれる空気感も上質で、彫りの深さも感じられる良くできた美しい香りですが、あくまで全体的な印象は現代的なフルーティ・フローラルシプレなので、1925年の代表作という能書きとは相容れない点で、オリジナルはどうだったのかな、となおのこと往時に思いを馳せてしまいます。ちなみにムエット上ではトップのパウダリーアイリスが長持ちしますので、パウダリー感を長く楽しみたい場合はハンカチや下着の裾等につけた方がよいでしょう。
ペールレットEDP100ml
 
資料・画像提供:ミュリエル・マデリーヌ氏/パルファム・ヴォルネィ
 
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