La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

Cuir Garamante (2013)

 

 

Cuir Garamante (2013)


キュイール・ガラマントは、LPTではお馴染みのランスピラトゥリス(DIVINE)を手掛けたリシャール・イバヌに調香を依頼し、ニュイ・アンダルースと同時発売されたメンズフレグランスの最新作です。

「ガラマントの革」の名に由来するガラマント文明は、現在のリビアに相当するサハラ砂漠に栄えた古代文明で、砂漠化と緑地化を繰り返し地下水を湛えた中央サハラに紀元前500年ごろ勃興したと言われ、潤沢な地下水を汲み上げた灌漑によるオアシス農耕で麦やナツメヤシ、オリーブなどを育て、高度な都市国家を築きあげましたが、水の切れ目が運の切れ目、汲めども尽きせぬと慢心した地下水が枯渇し、急速に衰退した後、紀元500年ごろに滅びたと言われています。ガラマント文明が興った地域の国家、リビアには自国で調査発掘する経済的余裕がないまま、今まで謎多きアフリカ人の王国と言われていましたが、ここ数年で人工衛星を活用した空からの遺跡調査も駆使した発掘と測量により漸く全貌が明らかになりつつあります。

そんな男の考古学ロマン的題材を元にしているか否かは別として、知られざるもの(エキゾチック)=オリエント、な西洋人にとって、ガラマント文明の発掘は地元民より遥かに魅力的な発見だったと容易に想像できますが、香りとしては、なめしになめし、これ以上薄くならないほどなめした、非常に柔らかくスムーズなグレーの革を彷彿するスウィートなオリエンタルレザーノートです。ラブダナムやフランキンセンスなどの樹脂に欧米人の心の故郷、バニラが甘さの根幹となり、乾いたレザーとサンダルウッド、サフランと潤いのローズとウードアコードの乾湿が調和し、簡潔的に顔を出すシトラスやシャープなスパイス、乾いたパピルスがアクセントにきらめきを与えています。サハラの砂の輝きを海の水面に例えたか、ガラマンテスの民も愛でたであろう、砂漠から臨む地中海の、水面の煌めきを感じる透明感や、寄せては返す波の泡が、見事に表現されています。メンズとしてもかなり重さと甘さのある香りですが、オリエンタル系のお好きな女性にもお奨めで、秋冬向けの上質なレディス向けのオリエンタルとも言えましょう。

MDCIはFacebookなし、Twitterなし、Instagramなしとニッチブランドの必須販促ツールであるSNSに一切参加せず、オーナーであるクロード・マーシャル氏自身もメディアの取材に対し「主役はあくまで香りとボトル。私はただのオーナーだから」と一貫してご自身の顔を出さない一方で、最近見かけたインタビュー*では昨今のフレグランス市場に対しストイックなまでの嫌悪感と自らの姿勢をはっきりとした口調で標榜しています。「グラースの調香師ほど嘘つきな人間はいない」「何本売れたかは問題じゃないんだ。大事なのは、どれだけ買ってくれた人が満足してくれるかだ。使ってくれるみんなを騙すのではなく、心から喜ばせることなんだ」「目新しいもの、変わったものには興味がない。大切なのは香りの個性、そして完璧な、しかも明確な処方。それだけだ」「毎年、はいて捨てるほど新しいブランドが大挙して現れるが、まともなのはせいぜい5つか6つだ。どうせ半年もすれば消えていくさ。おまけにどいつもこいつも似たり寄ったりのコンセプトじゃないかーミニマリズム?シンプルなパッケージ?ナチュラルな香り?うんざりだ。だから私は見本市なんかには出展しない。強いて言えば二つだけ、惰性と義務で出ているだけだ」「自己PRは嫌いだ。どこにでも顔を出して、自分を売りたいのか、商品を売りたいのか、わからない人間が多すぎる。MDCIにとって最も重要なのは香水であって、オーナーじゃない」「私はこの仕事が大好きだ。私はもう若くない。顧客に永遠の若さを保証することはできないが、かけがえのない最高のものを届けられる自信はある。香水を作るのはものすごい時間がかかるんだ、その時間の中に今いられることは、たとえ会社は小さくても幸せなことだ。規模を拡大しないことで、家族との時間も充分持てるし、趣味の鉱物収集も楽しんでいるよ」この揺るぎない信念。商売人としては決して立ち回りの上手な方ではないでしょう。今回の特集に際し、実際に何度もやり取りする機会に恵まれたクロード・マーシャル氏、実際はこんな極東の一般愛香家に対しても誠意をもって対応してくださり、かつメールにはたいてい顔文字という気さくな方でした。たとえどこの取扱先でも頭なしのボトルばかりが売れようと、頭は絶対つけるんだ。類い稀なる良き香りは、美しいボトルに納めなければならないのだーここまでの不動心で一本筋を通して潔く生きる、人間として憧れすら感じます。

バストなしボトル

参考文献
* http://www.fragrantica.com/news/Interview-With-Claude-Marchal-and-MDCI-News-4347.html

 

contact to LPT