Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Rose de Siwa, Enlevement au Serail (2006)

03. Modern Classic

Rose de Siwa (2006)

MDCI創業時のF・クルクジャン謹製レディス三部作のうち、2番目となるローズ・ド・シワです。シワとはエジプトの砂漠に位置し古代文明が栄えたシワ・オアシスから由来しています。オアシスに咲くバラの如く、潤いのあるローズで、3部作の中では一番しっとりとして品の良い成熟した女性の滑らかさを感じます。バラの青味や酸味は立ち上がりほんの一瞬で終わり、程なくバイオレットとムスクが交わりじわじわと輻射熱のような暖かみとなって体を包み込みます。ローズとしては秋冬向けだと思いますが、公式ウェブサイトにあるようなグルマン系ローズではなく、せいぜい温かい甘味のあるローズ、といった所なので、もしこれをグルマン系というならば、胃弱系ローファットグルマンでしょう。つくづくMDCIの香りの定義はベリーライトなんだと思います。ただこの薄口グルマンは他の三部作と同じく、さすがは大衆香水のヒット作をばんばん出している売れっ子調香師、結構肌馴染みがよくつけやすいのと、一番香り立ちに骨格と奥行きがあり、香りもちもしっかりしていますので、貧乏くさいですが三部作の中でコスパが高いのはこれでしょう。


おいそれと手の出ない価格のボトルに、最高級の香料を使って万人受けする親しみやすい香りが詰められた、創業時のレディス3点を試してみて髣髴したのは、とあるところで知り合った女性と意気投合し、暫く一緒にいたら、別れ際、彼女を運転手が黒塗りのリムジンで迎えに来て、一人街角に取り残された自分の身分違いを唇かみしめて茫然とする、そんな光景です。それと、いつも頭の中によぎるのは「本当に香水の好きな人って、買うのかな」という疑問です。ボトルと価格で興味を持った、高いものほど特別な価値があると思っている「趣味の人」が香りを試して結構普通でびっくり、一方で香りだけを試したら、どこのデパートで買えるのかな、と親しみを感じて、価格とボトルを見てこれもびっくり、いずれの客層にもたどり着けずに、ある意味自慢のボトルが香水自体の正当な評価を遠ざけているともいえましょう。いつしか「そんなオモシロ香水もあったよね」と言われて終わるのではないかと、おおいに心配しています。あと、使い終わった空のボトルは、どうすればいいんでしょうか。メーカーで回収してくれるのでしょうか。現在MDCIにリフィルの展開はないのですが、もう、自慢の頭付ボトルは売りたいんだから仕方ないので、無印良品の化粧品みたいなボトルに200ml詰めて、リフィルも売った方がまだ親切です。そっちが売れると思います。

 高くとまってなんか、ないのよ・・・。

 

Enlevement au Serail (2006)

MDCI創業時のF・クルクジャン謹製レディス三部作のうち、3番目となるアンレヴマン・オ・セライです。調香はモーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」から名を得ている、何とも大仰な名前の香りですが、香り自体はそれほど大仰でもありません。

最近のものにしては作りこみがクラシックで、香りの層が肌に近い部分と体を取り巻く部分で違っていて、外側は空気感のあるふんわりしたピーチ系シプレですが、肌表面には生々しいジャスミンが、まるでおならのようなインドール香を含んでびっしりいます。それが何故か渾然一体とならないので、体の動きによって穏やかなピーチシプレ香とおならジャスミンが交互に顔を出すのが「後宮からの逃走」なのでしょうか。香り立ちとしては若干小声で、少々メリハリに欠けますが、プロメッス・ド・ローブと同じく親しみやすく優しい香調で、表面がピーチ様なのとシプレベースなので、アンレヴマン・オ・セライとプロメッス・ド・ローブは同じ親から生まれた事もあり雰囲気の違う姉妹かな、という印象があります。まるでアイドリングストップを自主的にしているように、動かないと殆ど香りませんが、体を動かした時にふわっと湧くように香るのは上品で、余程始終肌に鼻を近づけたりしなければおならも気になりません。なお、けちらずに意識して多めにつけると、おならもピーチも体温で温められ、やっと一つの層になり、ぐっと香気が引き立ちますので、EDTを付ける感覚でお使いになった方がいいかもしれません(なんと不経済な…)。

3部作の中では一番クラシックですが、あくまで香り立ちはライトで現代的、公式ウェブサイトで言うほど帯をひくようなシャージは出ない上、オリエンタル・フローラルと言うほどの重さは全くなく、一方で持続は結構しますので、これをクラシックなオリエンタル・フローラルと定義するとしたら、MDCIというブランドの定義は相当軽いので、普段「所謂」オリエンタル系が好きだから、と香りの解説を読んで試香せずボトルを手にしたら(この価格設定でそんなチャレンジャーは中々いないと思いますが)あまりに軽くてびっくり、となると思います。普段クラシック香水を好んで使っていて、あまり流行の香りには興味がないのですが、世の中的にどんどん香りが軽くなってきているのが、こんな所でも痛感します。

そこはかとなく、おならの香りが・・・。

さてこのアンレヴマン・オ・セライですが、2011年のLPT初回特集時にプロメッス・ド・ローブ、ヴェープル・シシリエンヌ(2009)とあわせ「ピーチシプレ3部作」と名づけましたが、うちアンレヴマン・オ・セライが早くも廃番になりました。まさか似たり寄ったりの香りが並んできたので間引きでもしたのか、と早速クロード・マーシャル氏に問い合わせたところ「IFRAですよ…原料の幾つかがIFRAの禁止リストに入ってしまったんです。処方変更したらどうしても香りが薄っぺらくなるし、オリジナルの薄っぺらいコピーを売り続けるのは納得できないので、廃番にしました」との答えが返ってきて、ちょっぴりくすぐってみようかな風な軽い気持ちで問い合わた自分を少々恥じました。ちなみに多分今回ひっかかった原料というのは天然香料のジャスミンとオークモスで、特にジャスミンはそこはかとなくおならの香りがするインドール臭が漂うほどの過積載でしたので、おならの元が入れられなくなった時点で「後宮からの逃走」が成立しなくなります。オークモスも俄然香りの深みが違ってきますので、香水としての息の根を止められたといっても過言ではないでしょう。これはクラシック香水全般における危機ですので、誰も対岸の火事として笑ってはおられない由々しき事例で、いずれシャネル5番も、ジョイも自らのパロディを演じなければならない日が到来することでしょうし、ミツコは専属調香師、ティエリー・ワッサー氏の手により、アレルギー成分を分子レベルで見直したIFRAの基準に抵触しない準天然原料に置き換える事により、生身の体から全身擬体化が完了しています。

この後、再特集のため改めて資料を読み直したところ、マーシャル氏の「ここまで不器用でいいのか」的人物像が明らかになり、ただの酔狂な殿様商売くらいにしか捉えていなかったMDCIの真の魅力を、特集の最終回にて綴りたいと思います。