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La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Arabian Fragrance guide 12: Surrati

Surrati and "designers inspired" fragrances

 

アラビアン・フレグランスの世界には、”デザイナーズ・インスパイア系”というジャンルで、欧米の人気香水を模した香油が威風堂々と存在しています。著作権侵害の後ろめたさはゼロ、それどころかどのメーカーも「○○よりも持続性と香り立ちを高めた、100%オリジナル純正品」と、口が裂けてもそれがコピーだとかパクリだとかは言いません。欲しい香りを馴染みの香油で丁寧に作ってしかも安い。いったい何が悪いのかしら?と、インシャラーな笑顔を前に、パクられたオリジナルのメーカーは振り上げた拳の降ろしどころがありません。まるでどこかで当たった創作料理が、いつの間にかご当地グルメに昇格し、どの店もうちが1番美味しいよ!と言い張るのに似ています。まあ、欧米のメーカーだって血眼になってアラブだウードだ言っている訳だし、そもそも近代西洋香水の歴史なんて一部の突然変異と無数の模倣と回顧の繰返しではないですか。商売なんてそんなもんです。物は試しと、オリジナルと交互に、または体の左右につけ比べてみると、こちらもインシャラーな気分になること請合いの出来映えで、高い賦香率もさることながら拡散しづらく持続の長いオイルベースの良さが活かされていて、ブランドネーム抜きにしたらインスパイア系香油の方に軍配をあげたくなることも少なくありません。実際、量り売りで1トーラ(12ml)2、3000円のインスパイア系が、一桁違うデザイナーフレグランスの限定品や時に1本数万もするメゾンフレグランスに負けじとも劣らないのは逆にどういうことか、と首をかしげます。良きインスパイアード・フレグランスを作ること=オリジナル品への大いなるリスペクト、と理解すれば、あなたとアラブの関係は一歩近づきます。

 

インスパイア系香油はメジャーブランドのファッションフレグランスが中心で、シャネルやディオール、YSLやジバンシーは勿論、モンタナ・パルファンドポー(今でも数社が出しているアラブ圏で大ヒットの香り)、エンジェル、エイリアンなどミュグレー品、パコラバンヌ、ブルガリ、カルバンクライン、セレブコラボ系など欧米で大ヒットしたらアラブ香油でも大概見つかりますが、不思議とグラン・パルファン系は人気がなく、ゲランはシャリマー位あっても良さそうなのにサムサラしか見かけず、キャロンやコティ、ジャン・パトゥ等は全く見当たりません。個人的には、スイス・アラビアン版ラニュイ(パコラバンヌ、廃番)にかなり興味があります。また最近ではウードを取り込んだ欧米のトレンドを逆輸入、各ブランドの湾岸限定品にインスパイアされています。中でも双方向完全フュージョンが、トム・フォードと言えましょう。トム・フォードの代表作、ブラック・オーキッドは勿論、ウードや中東香の影響を色濃く受けた高級ラインのプライベート・ブレンドシリーズからも多種インスパイア品が作られ、空前の大ヒットとなったのがサウジの老舗メーカー、スラッティ(http://www.surratiperfumes.com/)が出したウード・ウッド(OudWood)のインスパイア系、その名も堂々「トム・ウード(TomOudh)」。なんとも噴飯もののネーミングですが、アラブでは頭に「トム」とつけると信頼度が増すらしく、他にもアラビアン・ウッド(ArabianWood)は「トム・アラビアン・ウード(TomArabianOud)」、タスカン・レザー(TuscanLeather)は「トム・タスカン・レザー(TomTuscanLeather)」と見も蓋もない名前で香油が作られ、いちいち大ブレイク。アラビアン・フレグランスショップにサンプルを依頼すると、まず確実にトム物が入ってきます。

 

インスパイア系で荒稼ぎをしているアラブ2大メーカーと言えば、異論なくスラッティとスイス・アラビアンでしょう。特にスラッティは欧米メーカーだけでなく、アブドゥル・サマド・アル・クラシ(ASQ)も目の敵にしており、ASQの看板商品、ボディムスクをはじめ最近ではパッケージまで酷似した高級量り売りラインを始めたほど。そういうASQもエンジェルのインスパイア系、ファナール・ブレンド(FanarBlend,$75/tola)を出しています。スイス・アラビアンも、ジボダン香料使用の強みを活かして、どこかがアラブ限定を出せば、一歩遅れてインスパイア系香油を出しています。それでは、キング・オブ・インスパイアード、スラッティの代表作(問題作?)及び他メーカーの話題作をご紹介します。

スラッティの量り売り用香油ボトル。保存性の高いアルミ缶

 

Black Orchid aka Black Orchid by Tom Ford Beauty (2006)
レディス、ダーク・オリエンタル・シプレ。

2005年にエスティ・ローダーと契約してからトム・フォード名義で出した初の香り、ブラック・オーキッド(2006)。アメリカのマスメーカーと組んだ世界最強パワーゲイが、名の知れた調香師には頼まずに、香料メーカー、ジボダンの無名チームにやらせた仕事が大ヒット。まったりしたリキュールチョコレートを食むと口のなかできゅっと果皮が弾けるショコラシトロンのような、軽重・緩急の利いた花咲くダーク・オリエンタル・シプレですが、これがウードこそ使われていないものの、昨今のアラビアン・ウードミックスのベースにも通じるアラブ好みで、インスパイア系メーカー、スラッティも早速値頃な香油で発売。これがまた良くできていて、左右につけたら立ち上がりはどちらか判らないほど。しかもEDPベースのオリジナルでは叶わない濃厚なオイルベースならではの持続と柔らかな拡がりで、オリジナルの意識が薄れてなお、ふんふんとミドルノートを満喫。ラストもオリジナルに似てバルサミックウッディに落ち着く。オリジナル版ブラック・オーキッドは限定でパルファムも出たそうですが、スラッティ版をエスティからバスオイルで安価に出したら、第2のユース・デューな勢いで売れること間違いなし。スラッティのインスパイア系では一番に良くできている香りで、トムフォードだから、ではなくこの香りが好きなら、スラッティ版を奨めます。

価格: 量り売り 1tola$25 
(参考:国内定価(税込、阪急オンライン)50ml12,960円)
ウー度★☆☆☆☆

Tom Oudh aka Tom Ford Private Blend Oud Wood (2007)
メンズ寄りユニセックス、スパイシー・ウッディレザー。

ブラック・オーキッドに続き、トム・フォード氏は自らの名を冠しトム・フォード・ビューティ名義の一般品と倍の価格差で市場に叩き付けた結果、衝撃波で吹っ飛んだ香水ファンの心をわしづかみにしたのがプライベート・ブレンド・シリーズ。単品のみならず、シリーズ内のレイヤリングも可能で、札束の匂いがするとまではいいませんが、確実にトムフォード氏へのギャラを均等分配しているといえましょう。トムフォードの香りはアラブ諸国でも大変人気で、海外の香水コミュニティでは英語に混じってほにょにょにょにょ、おにょにょにょにょにょ、と高確率でアラビア語のコメントが入ってきますが、中でもアラブでぶっちぎりの人気を誇るのがウード・ウッドで、インスパイア系も真打登場、トム・ウード。欧米ではセクシーすぎて困る、というコメントを多数見かけるものの、印象としては総じてローカロリーなスパイシー・ウッディで、ウードを看板に持ってくるほどのウード感はなく、色々混じってレザー様に感じ、欧米の香水らしくベースには表層のウッディノートの下にバニラとトンカビーンが鎮座しているところが、実のところ欧米のファンをつかんだ所以かもしれません。スラッティ版もうっかりするとすぐに濃ゆいヒゲが生えそうなところを寸止めで薄口にとどめているのがわかりますが、オリジナル版よりレザー風味が強く、結局ヒゲが生えかかっています。

価格: 量り売り 1tola $18, 100gボトル $52 
(参考:国内定価(税込、阪急オンライン)50ml27,000円)
ウー度★★☆☆☆

Tom Tuscan Leather aka Tom Ford Private Blend Tuscan Leather (2007)
ユニセックス、タクシーレザーベリー。

今回ご紹介のプレイベート・ブレンドでは欧米の評価も合わせて一番人気のある、タスカン・レザー。勿論アラブでも人気です。ちなみにプライベート・ブレンド全体での一番人気はタバコ・バニーユ(2007)で、ウードだ何だいってもやっぱり欧米人はDNAがバニラを欲しがります。隠し味的なレザーはフローラルにしろオリエンタルにしろ全体の雰囲気を一気に引き締め、硬派な破壊力をもたらしますが、前面に押し出してトッピングにベリーを持ってこられると、例えば新品の革製品や天然皮革のソファなど、革の匂いが苦手な方には辛い香りでしょう。冬、新品の長い革手袋をはめて髪をいじりながらラズベリーガムを噛んでいる女と行きがかり上タクシーに乗り込み、LGガスと革の匂いが充満した暖房中の車内で絶体絶命の感覚に陥ります。印刷物も複製はコントラストがきつくなるのと同じで、オリジナル版のほうが多少まろやかでスラッティ版は刺激臭にすら感じます。持続の長いオイルベースという長所があだになった、いつまでも消えないタクシーレザーベリー臭に悶絶。こちらの香りがお好きなら、オリジナル版のほうが良いでしょう。

価格: 量り売り 1tola $17 
(参考:国内定価(税込、阪急オンライン)50ml 27,000円)
ウー度☆☆☆☆☆

Tom Arabian Oud aka Tom Ford Private Blend Arabian Wood (2008)
ユニセックス、ウッディ・グリーン・シプレ。

初出は2008年、クウェート限定で発売され、その後2009年パリの高級デパート、ギャラリー・ラファイエットを皮切りにロンドンのハロッズやセルフリッジなどアラブの富裕層も大好きなイギリスのデパートや、ここ日本でも入手可能となったアラビアン・ウッド。もとはご当地限定、しかもトムフォード品をアラビアンメーカーが放っておくはずがなく、早速出たのがこのトム・アラビアン・ウード。「トム」と「ウード」のアラブ2大好物で期待に胸膨らますも、何故かウード感はゼロ。それどころかヴィンテージの19番(1970)を彷彿し、ノレル(1968)やオーダス(1972)が脇を固めシェレル(1979)も応援する高度成長後期クラシック・シプレそのもので、もうちょっと大人しめのクリアでスパイシーウッディなオリジナル版を突き飛ばさんばかりのガルバナムとオリスがさく裂、オークモスも誘爆する猛烈グリーンなウッディシプレとなっており、そこにはアラビアンもウードもありません。大いに看板に偽りありですが、オリジナルのアラビアン・ウッド自体もともとウードではない上どこもアラビアンではないので致し方ない。こちらも高い賦香率とオイルベースのおかげでオリジナルの残り香が命かげろうとなってもふんふん湧きたつ持続の良さで、ラストな何とも言えないダスティなウッディグリーンになり、あれ?今日って19番つけてたっけ?いいなあこれ、となります。

価格:量り売り1tola$25
(参考:国内定価(税込、阪急オンライン)50ml27,000円)
ウー度☆☆☆☆☆

Black Oudh aka Black Aoud by Montale
ユニセックス、ウォータリー・フローラル・ウードブレンド。

パレスチナ人オーナーがフランス人の名前とパリという地名を合わせ「サウジで王族に香りをしつらえていた調香師が、フランスとアラビアを融合させ、ヨーロッパで初めてウードを香りに取り入れたたフレンチ・アラビアン・フレグランスの老舗」というイメージ戦略で展開しているブランド、モンタル・パリ。EDP展開の製品全体の印象はおしなべて水っぽく、現代的な薄くて軽くリニアな香り立ちで、そこにパリを感じて高評価なのか、湾岸諸国でも定番の人気ブランドです。スラッティからもモンタルのインスパイア系香油は幾つか出ていますが、ダントツで人気なのがこのブラック・ウードで、元がなんちゃってウード系ローズフローラルですので、丁寧にインスパイアした結果香油版も薄くてリニアななんちゃってウード系に仕上がっています。左右につけ比べると左でモンタルが、右でスラッティがうすーく薄く持続しますが、モンタル版が若干ウッディでスラッティ版のほうがローズが強いものの、双方の印象・持続・拡散ともに同印象なので、そんな質感までインスパイアして作ってくることに驚かされます。ただしどちらもウー度は低めなのが玉にきず。

価格 : 量り売り 1 tola $20
(参考:定価(公式オンラインショップ)€100.00、国内販売なし)
ウー度★☆☆☆☆

Musky Rose & Amber Rose
レディス、アラビアン・ローズブレンド。

スラッティはインスパイア系ばかり話題ですが、他社同様中東香の香油やシンプルなブレンドも多数出していて、中東でも人気のローズではアンバーまたはムスクとのブレンドが売れ筋です。
ムスキーローズはムスクの丸みが余り活かされていない、若干キリキリ系のピンクローズ。この硬さは結構他のメーカーでも見られるので、アラブ的にはマイナス要因ではないようです。アンバーローズはアンバーvsローズが3:7でローズ勝ちのブレンド。同じくローズ勝ちのムスキーローズより上品で深みがあり、ムスキーローズが言わば半透けのピンクいペタルなら、こちらは肉厚なベルベットローズ。どちらが良いかは好みの問題ですが、どちらも値段なりのカジュアルローズなので、普段使いにおすすめ。

価格: 量り売り 1 tola $13
ウー度 ☆☆☆☆☆

Black Afghano aka Black Afgano by Naso Matto
ユニセックス、アラビアン・スウィートタバコウード。

アラブメーカーお得意の「インスパイア系」の中でも、現在スイス・アラビアンの裏看板と言う程の人気を誇る、ナーゾマットのオリエンタルウード系パルファム、ブラック・アフガーノをそのまま冠にした同名のCPO。カナビス(ハッシッシ)香料を使用し、一時的なトリップ感が味わえるのが売りですが、断じてそのようなことはありません。本家の終始表層に漂うカナビスとおぼしきハッパ臭さが、オイルベースのためかかなり抑えられ、その分香気がまろやかに感じます。甘く香付けされたタバコと深煎りのコーヒーに、ウードをまぶして樹脂でまるめた丸薬という印象はそのままですが、肌馴染みのよさと持続性、そして発散する香気は、個人的にはスイス・アラビアンの方が上に感じます。香調を書き並べると難易度が高そうですがミステリアスな表情のわりにはつけやすく、おまけに男性受けが良いのも意外。ニッチブランドのへヴィ系ウードブレンドも結構この辺りがスタンダードになっていることから、欧米間でも持ちつ持たれつの一大トレンドなのでしょう。なお、ナーゾマットではウェブ限定でブラック・アフガーノの香油も販売しているので、本家のアンサーバックも是非聞いてみたいところ。

価格 : 量り売り 100g $55
(参考:定価(公式オンラインショップ)パルファム30ml€118.00、香油4ml€42.00)
ウー度★★★☆☆