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Blanc and L’Eaud’Hiver (2003), the pale twins

Blanc and L’Eaud’Hiver (2003), the pale twins

人気ファッションブランド、ポール&ジョーのボーテ部門(アルビオン系列)初のフレグランスとして2003年同時発売されたブランとブリュは、一旦生産終了後、近年ボトルチェンジして再発されました。日本のポール&ジョーボーテでは取扱がないようですが、並行輸入品店などで入手可能です。しかもたいてい大廉売されています。

ブランは、生花の青々とした立ち上がりから程なく、杏仁を髣髴するミルキーなアーモンドやパウダリックなヘリオトロープ、フリージアやスイートピーなどの強香な球根花が重なり合って、ベースのムスクに支えられた、ほの甘いミルキーフローラルですが、アパレル系にしては中々に上品で流行り廃りのないよい香りに仕上がっています。さながらポール&ジョーのパッケージイメージをそのまま香りに閉じ込めたような、強い色味がどこにもないふわふわした心地よさです。全体的な印象は若い人向けですが、はしゃいだ感じはないのでオフタイムならば幅広い年代にお奨めです。オードトワレ1展開ですが、うすら淡い香りの割には最初の1,2時間はしっかり拡散しますので、つける量は加減した方が良いかもしれません。

ブランはジャン・クロード・エレナが、ブリュはピエール・ブルドンが調香した事は日本では別段話題にもなりませんでしたが、二つのうちブランは、同じ年にフレデリック・マルから発売された、同じくエレナ調香の「冬の水」に香りが酷似しているため、ブラン=冬の水使いまわし説まで出て、別の意味で話題になりました。

何倍もの価格差のある「冬の水(ローディヴェール)」と比較して「廉価版・冬の水」と格下げのように言われているブランですが、決してそのような事はなく、冬の水が法外なだけなのだと思いますし、この価格帯のアパレル系にしては良く出来ている方だと思います。ただ、ブランは肉薄ながら女性の柔らかさを感じますが、冬の水はアイリスが強くミルキー感が弱いため更に肉薄で、女性というよりは無性、敢えて性をうたうならブランの「手足が長くて蒼白な文学青年のお兄さん(身長183cm・58kg)」といった風情です。個人的には「ブランで充分だろ」というのが率直な所です。

さて、そのブランの「双子の兄」、「冬の水」ローディベールは、立ち上がりは結構男っぽいシトラスノートで、ここからメンズ風にサンダルウッドでも出てくるのかと思いきや、すぐさま冷たいアイリスとアーモンド、ヘリオトロープなどのパウダリーノートになっていきます。最初の30分位はつけたのを後悔する位拡散するのですが、やがて弱々しい小声になり、割合持続もせずに朝つけても昼には何事もなかったかのようなうっすらとしたスキンムスクで終わります。空気の澄んだ冬の朝、岩清水が以外と肌に暖かい、そういうイメージで作られたのかな、というのが良く分かります。路線としては現行品のアプレロンデ等に近い、体感温度の下がる香りですので、夏場などには涼感が心地よいと思います。

ブランとはどこから見ても同じ親から産まれた双子の兄妹なのは一目瞭然ですが、冬の水の方が弁が立って神経質、かつ持続力がありません。トップのシトラスに気持ち男らしさを感じますが、それ以降は一切性を感じさせない肉薄な展開で、握手をするとひたひたと濡れ手が冷たい美青年のようです。中庸で香りの長持ちするブランが、一過性の冷たい爆発のような冬の水にかなり劣る妹分、のように卑下されるのは、価格差や出身ブランドも手伝っての事ではないかと思います。

ちなみにフレデリック・マルはメーカー直販の他に日本では伊勢丹の取扱いがありますが、香料濃度が10%との事からほぼオードトワレ程度の濃度にも関わらず50mlで16,800円という結構なお値段(マルの商品のなかでは安価な部類)の冬の水と、並行輸入品なら3,000円台で手に入るブランがそっくり、というのもなんともお寒い話です。フレデリック・マルの製品は超一流の調香師が最高級の香料を使い、妥協なく製作に打ち込んだ「作品」だから、というのが一般論としての答えなのでしょうが、香水をつけるものにとっては最終的に良い香りであればよいのであって、マルの商品解説に良く出てくる「最高級の天然香料とハイテク技術の融合」「製作期間○○年」「世界最高濃度の□□アブソリュート使用」など、うんちくをまとってもとびきり香り立つ訳でもなく、時折首を傾げたくなるような香りも輩出している事から、まるでギャグの意味を詳細に字面で説明しているような節があり、興味はあっても積極的に触手が伸びないブランドのひとつです。

ブラン 50ml

  冬の水 100ml

FM画像提供:HLグループ 広報

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