La Parfumerie Tanu

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Lumiere (1984), Lumiere Intense (1986)

Lumiere (1984)、Lumiere Intense (1986)

戦後ロシャスの香りを振り返ると、1970年代迄のレディス品はアルデヒド系のマダムロシャスを筆頭に、ユニセックス系の別格本山とも言うべきオードロシャス(1970)、今尚探し求める方の多いミステア(1979)など、若い方からご年配まで幅広い年齢層に長く愛される香りが多かったのですが、1980年代に入り、当時のロシャスとしては若い女性をターゲットにした新作、ルミエールが発売されます。

当時はまだ新作でもきちんとパルファムを出していた時代ですが、濃度はオードパルファム1種のみ、価格帯も他の同濃度品より2~3割抑えての発売でした(参 考/1989年国内販売価格:マダムロシャスPDT23ml/¥6500、ミステアEDP30ml/¥7000、ビザーンスEDP50ml/¥9500、ルミエールEDP50ml/¥7000)。私も学生時代、出始めのルミエールを銀座松屋の香水売場で店員さんに勧められ、いい気分で購入した記憶がありますが、学生の分際で買えたのですから、更に安いお試し用30mlサイズだったのかもしれません。

香りとしては、最近ではありそうでなかなかない「女性=純潔」という理想を香りにしたような、とろけるような甘さと突き放した清涼感が同居した、一種独特な浮遊感のあるホワイト・フローラルで、調香は当時の専属調香師、ニコラ・マムナスです。80年代前半のフローラルらしく、アルデヒドをスパーク剤に用いてグリーンやベルガモットなどのフレッシュな要素を弾き飛ばした瞬間、非常に渾然一体としたとろりとしたフローラルが柔らかく拡がります。チュベローズ、ヒヤシンス、ナルシスなどの球根系に甘いハニーサックル、濃厚なイランイランなどが主軸に置かれているようですが、ひとつの「ルミエール香」となっている所が良く出来ています。ベースにあるサンダルウッドやムスクがとろみに暖かさを加える一方で、バイオレットやオリスの冷涼感もあり、そのさじ加減で単なる若い香りに終わっていない多面性が魅力です。キャシャレルのアナイス・アナイス(1979)あたりと同路線ですが、アナイスといいルミエールといい、今風の軽口フローラルと比べると、案外にドライで芯があるのも特徴です。

ルミエールは、マダムロシャス、ファムと同じく1986年、ウエラに買収される直前にアンタンス・バージョンが発売されており、多分買収と同時に廃番となったのだと思いますが、オリジナルのルミエールを丁寧に踏襲しながら、ジャスミンやイランイラン、若干の動物性ベースを強め、ふくよかな体のシルエットを思い浮かべる肉感と、普遍的な母性を髣髴する「成長した姿」になっており、若く美しい女性ヴォーカリストが心身共に成長し、大切に歌ってきたデビュー曲を豊かな歌唱力と腕利きのバックバンドで再録したセルフカバーを聴いているようです。アンタンス版は殊の外ミドルノート以降が美しく、脱いだ衣服に顔をうずめ て深呼吸したくなる程です。香り持ちも一般的なパルファム程度ありますので、手に入るならばアンタンス版がお奨めです。海外アウトレット通販などでオリジナル版・アンタンス版共にデッドストックがまだ多少出回っていますが、多分次に見かけたらもうないと思っていた方が良いでしょう。

既に廃番となったリニューアル版ルミエール(2000)とは全く別物で、リニューアルの際あまりの違いにがっかりした方も多いと聞きますが、いつも、大手ブランドがリニューアルと称して噴飯物を出してくるのは如何なものかと憤ります。ニナにしろ、クロエにしろ、イヴォワールにしろ、どうせ今風に中身を変えてしまうなら、全く別の名前で出直して、昔のファンをがっかりさせないで欲しいです。

アンタンス版EDPボトル

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