La Parfumerie Tanu

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Ta'if (2004)

Ta'if (2004)

英国の女性調香師、リンダ・ピルキントン主宰の香水ブランド、オーモンド・ジェインのレディス9種のうち、ブランドのシグニチャーとしているオーモンド・ウーマンを押して堂々人気№1の座を誇るフローラル・オリエンタル系の代表作、タイフです。


タイフとは中東の皆さんがブルガリアンローズやターキッシュローズなんぞ足元にも及ばぬと自慢する、アラビアの砂漠の高地に咲くダマスクローズの事で、アラビアン香水やアッター(香油)ではどこのブランドでもウード、ムスクと同じく、まず確実にタイフローズのシングルフローラル物を出しています。とはいえオーモンド・ジェインのタイフは直球の名前通りというよりはしっかり作りこんだ、温かみのあるアンバーローズで、やはり中東の代表的な果物、デーツを髄に据えている事でこっくりした甘さが出ています。たちあがりにサフランを持ってきているのと、オーモンド・ジェインの外の香りに共通のベースなのか、しゃっきりしたグリーンフローラルもブースターとして搭載しているので、渋みと青味が瑞々しく炸裂した後に、タイフローズの酸味と甘味、フリージアの球根系ならではの押し、デーツとアンバーの甘味ととろみが徐々に体温で温められて複雑に立ち上ってきます。ミドル以降は滑らかなバニラローズ様に香り、消え際も綺麗です。オーモンド・ジェインの中では相当華のある香りで、人気があるのもうなづけます。ディオールのジャドール・ロー(エッセンス・ド・パルファム)と結構体感が近いな、と思ったのですが、ジャドール・ローがかなりバニラとトンカビーンを重量級に投入しているのに対し、タイフはデーツとアンバーで甘味を出しているので、甘さの質が違い、タイフの方がさらっと、でもコクはちゃんとある、例えて言えばジャドール・ローが肉汁たっぷりのアツアツ小龍包だとしたら、タイフはエビあんとドンピンミィで作った翡翠餃子程度のローファット加減です。もしジャドール・ローが好きだけれど、限定だったのでもう手に入らない、という時は、価格もジャドールより値頃なタイフのEDPをお奨めします。なお、タイフは肌温度で香り立ちがだいぶ変わり、手首につけて鼻で嗅ぐと苦みやえぐみを感じることがありますが、きちんと全身につけて立ち上がる香気を吸うと、こんなにもまろやかだったかと驚きますので、良さや相性を見極めるにはムエットや手首での試香ではなく、是非一度全身につけてお試しください。だいぶ印象が違うと思います。


閑話休題、オーモンド・ジェインは創業時からレディス香水すべてにパルファムを用意するなど、往年の香水好きにも嬉しいラインナップが特徴ですが、ニッチ系フレグランスとしては値頃な(80ポンド/50ml)オードパルファムの賦香率が各25%と、どちらも一般的なパルファム濃度で処方されており、しかもパルファム(賦香率30%)とオードパルファムは価格は倍以上違う(パルファムは184ポンド/50mlから)のに、賦香率は5%しか違わず、確かにP,EDP双方試したトルーはあまり香りや持続、拡散性に違いがなく、EDPの方が若干華やかな一方でPは複雑で穏やかかな、と感じた程度だったので、ある意味オーモンド・ジェインのEDPは非常にコスパが高く良心的だと思います。


ところで、同じユナイテッド・パフューム社が広報を担当しているメゾン・フランシス・クルジャンはブルーベルが国内展開をしていますが、オーモンド・ジェインは微妙にボタニカル女子路線がかぶってきて売りにくいのか、現在も日本未発売な一方で、香水界の川越シェフみたいなクルジャンの顔で売ってるアイテムが目の飛び出るような価格で売られているのを見ると、結局大手が代理店になると法外な価格になる⇒値段に合わない⇒売れない⇒評判落ちる⇒撤退、になるのが目に見えているので、それなら無理くり日本上陸しなくてもいいか、と落としどころのない一人ツッコミで尻がつぼみます。

タイフ新パッケージEDP

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