La Parfumerie Tanu

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Orris Noir (2006)

Orris Noir (2006)

オーモンド・ジェインのレディス香水は、シグニチャー作品であるオーモンド・ウーマンを除き、すべて一見シングル・フローラル系と判断してしまいそうな単一花の名前が付けられています。しかし、フローラル系5種、フローラル・オリエンタル系3種で展開する各々の香りはいずれもその名の花を神輿に乗せながらも複雑に層をなすブーケで、フローラル・オリエンタル系の中では一番新しいオリス・ノアールも、単なるアイリスの香りではありません。

オリス・ノアール、すなわちブラック・アイリスとは、アンマン特産のヨルダンの国花で、限りなく黒に近い濃紫の美しいアヤメをいい、虹の女神、イリスからその名を享けています。ブランドでは「シャイな人にはつけられない」ダークでスパイシーなオリエンタルノートとしていますが、そこまでの超絶した強さはありません。オリエンタルと言われてイメージする濃厚さとは裏腹に、トップからミドルにかけて猛烈に主役を張ってくるアイリスのおかげで冷涼な感じが強くでています。出だしからアイリスが擦った墨のような清浄感を伴い炸裂、そこにアルテミシア(ダヴァナ、よもぎの仲間)、コリアンダー、ピンク・ペッパーなどのスパイスが誘爆しますが、共通ベースで「OJトーン」とも言うべき、気負わず身を任せられるような安心感のあるグリーン・フローラルに、やはりここでも十八番のフルーティなジャスミンが顔を出し、深い所にはしっかり厚みのあるフランキンセンスやミルラなど神聖な面立ちの樹脂類に、ガイヤックウッドの温かみがあるので、ただの寒々しいアイリスにはならず、重なり合う濃色のオーガンジーに浮かぶ美しいモアレの様にまろやかに香ります。EDPでも朝つけて夕方までしっかり香りますが、フェードアウトの仕方が綺麗で、消え入る頃にはOJトーン&微かなアイリスになっています。

1)難しくなく2)良質で3)値頃な価格の香水を販売するというのは、結構な企業努力と志が必要だと思います。特にニッチ系ブランドという立場にいると、値段の高さも売り文句みたいな風潮がある中、オーモンド・ジェイン(英)やディヴィーヌ(仏)は頑張っている方ではないかと思います。OJの中でもフローラル・オリエンタル系3種(トルー、タイフ、オリス・ノアール)とウッディ系1種(オーモンド・ウーマン)はどれもが明確な個性と複雑な表情を持ちながら親しみやすい「OJトーン」のベース上に構築されているため、このベースと相性が合えば、往年のキャロントーンがファンを掴んで離さなかったように、4種とも長くつきあえると思います。

オリスノアール新パッケージEDP

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