La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Shiseido domestic perfume lines 2

Sourire/スーリール(1977)

国際的ヒットとなりデッドストック品などには破格のプレミアがついているインウイが華々しく登場した脇で同じ年に生まれたスーリール(1977)は、2009年の改廃で廃番となった香りの一つで、発売時はオードパルファム(60ml2,625円、ピュアミストもあり)とファンシーパウダーがありました。

位置づけとしてはスポーツフレグランスとなっていますが、スポーツというアクティブなアウトドアという雰囲気ではなく、かなり淡麗なグリーンフローラルシプレで、まず立ち上がりにヒヤシンスやガルバナムなど、青々としながらもシャマードにも通じる、どこかに花粉のような粉っぽさを残した生花や草の香りを感じます。そして徐々にさわやかでうっすらシトラスの残るパウダリックなフローラル・シプレへと落ち着いていきます。琴ほどのパウダリー感はなく、体を動かした時に初めて香る、すうっと抜ける風を描いた水彩画のような透明感が心地よいです。スポーツを紐付けるとしたら眩しい光に涼風が吹く高原のクラブハウス、といった風情で、汗をかいてもこもらない資生堂の十八番的香調が活きている点が「スポーツ」の謂れと言えましょう。オードパルファムですが割合軽い香調なので、上半身へ多めにつけたり、タッチアップして愉しむとよいでしょう。

都内の古い地下アーケードにある化粧品店に立寄った際、資生堂の香水について尋ねると廃盤になったパヒュームなどを色々出してくれながら「こういうものを売れないからといって廃番にしてしまうなんて、文化が死んでしまう事なのよ。売れる、売れないじゃなくて続けるって事が文化なのに、資生堂も功利に走っていけないわ。特に、スーリールなんか絶対なくしちゃだめだったのよ」と、年の頃は60前後と思しき、おすぎ似のおじさんが熱く語ってくれたのを覚えています。スーリールは、まだ資生堂が海外の売れっ子調香師に頼らず、自分達の力で日本の香水を自信を持って作っていた頃の佳作です。ZEN(禅)ですら、第2世代(白い流線型のボトル)はナタリー・ローソンが、第3世代(四角い金のボトル)はミシェル・アルメラックが外部委託として調香しており、特に第3世代の禅は別段資生堂でなくてもどこの誰でも良い香りになっているのは残念な限りです。

スーリールをつけるたび、あのおじさんの熱い思いが蘇ります。

  スーリール オードパルファム

Hanatsubaki/花椿(1917/1987)

資生堂は、昭和12年(1937)に顧客サービスの一環として花椿会を設立、年間購入金額に応じて非売品である感謝品を2003年まで提供していました。戦前は西陣織や七宝の化粧小物、戦後も陶器や鏡など美にまつわる記念品を提供してきましたが、資生堂創業115周年及び花椿会50周年記念感謝品として1987年に配布された花椿をはじめ、花桜(1988)、花菫(1989)と3期連続でオードパルファムが記念品となりました。

もとは資生堂初の香水から興し、上村松篁画なる外箱に繊細な一輪挿しのようなすり硝子のボトルに納められた感謝品の花椿は、これぞ資生堂、という心地よいグリーン・フローラルで、湯上りに極上のクリームでスキンケアをした余韻を昇華したような、ふんわりと体温と共に上気する、ボトルイメージそのもののやさしい香りです。資生堂が長年の研究で抽出に成功した、やぶ椿の香りを再現しているとのことですが、椿、とくにやぶ椿の香りがどんなものかわからないので、これが椿の香りかと問われると答に窮します。あえていうならまさしく「資生堂の香り」です。資生堂特有の、高温多湿の場でも香りがこもらない香調に整えてあり、通年使えますが特に梅雨時から夏にかけては特にお奨めで相当体が楽になるのではないかと思います。つけてからは殆ど香りが変化せず、またオードパルファムですが重いベースがないためそれ程香りもちはしません。

実は、資生堂の香りで初めてつけたのはこの花椿で、まだ学生だった私は花椿をつけていた友人の香りがあまりに素敵だったので、頼み込んで小分けしてもらい、最後の1滴まで大事に使いました。資生堂の香りに興味を持ったのは花椿がきっかけで、当時の資生堂の香水には大なり小なり花椿の面影があったので、手頃な事もあり好んで手にしていました。資生堂の発売品の中で印象が近いのは、既に廃番となったシャンデュクールだと思いますが、よりまろやかで、一歩引いた美しさがあり、配布当時は本製品として発売して欲しかったと願ったものです。

ちなみに、静岡県掛川市の資生堂企業資料館では、1917年に発売されたオリジナルの花椿と菊を復刻して発売しています。ボトルも発売当時のデザインを忠実に再現しており、感謝品の花椿とはどのように違うのか、いつか手にしてみたいものです。

Hanasumire/花菫(1989)

花椿会の感謝品として花椿(1987)、花桜(1988)に続き、1989年は花菫が配布されました。花椿会感謝品で香水の配布はこれで一旦終了し、カメリアシュペリエール(1997)、フルールエクセラント(1998)まで香水の記念品は出ませんでした。

香りとしては第一弾の花椿路線を踏襲しており、外箱は3部作を一貫して手がけた上村松篁画伯の菫が描かれ、和のなごみに洋の洗練を併せ持つクラシカルなガラスボトルに収められています。花椿に少し菫のトッピングが加わった、涼しげなパウダリー感のあるフローラルなので、まさに高温多湿の梅雨時などは大変体が休まる香りだと思います。ただ、花椿より更に香りもちがしない上、汗で流れやすいので、暑い時期ではせいぜい持って2時間というところでしょうか、是非タッチアップ用にアトマイザーをお持ちになって、付け足しながらお楽しみください。こちらの3部作は配布数が多かったのか、今でも未使用品がオークション等で手に入りやすいので、どれかひとつお手に取ってみては如何でしょう。

先日、資生堂は時流の流れに即応し、これまでの多品目展開主義を改め、毎年5〜600品目を投入していた新商品の数を約半減させ、季節ごとに発売していたメークアップラインの新色などを見送るなど、絞込みに入りました。当然新商品だけの絞込みに留まるとは思われず、今回紹介してきました国内流通の定番オーデコロンなどの存続はどうなるのだろう、と湯上りにファンシーパウダーをはたき、朝の出掛けにオーデコロンと既に廃番のパヒュームを重ねながら危惧しています。

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