La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Puredistance 1 (2007)

Puredistance 1 (2007)

ピュアディスタンスでは、公式ウェブサイトを見るとPDF資料あり、イメージ動画あり、香りのイメージとなる単語やイラスト、音楽、衣装、美しいモデルや風景等々、実際に香りを試す以前から、これでもかと脳内イメージを構築するキーワードが満載で、いつしか物凄く想像と期待が高まるようになっています。初出レディスである1(ワン:数字の1)のイメージは、○控えめ ○エレガント ○シック○エクスクルーシブ(独自性のある高級感) ○オリジナル性 なんだそうで、ローブドマリエをまとった女性のスタイル画が物語っています。

調香は、2003年米マスターパフューマーの称号を得た熟年調香師で、アメリカにおけるヒットメーカーであるアニー・ブザンティアンで、1970年代にルーマニアから移住、以来NYを拠点に活動している方ですが、何といっても彼女の代表作はプレジャーズ(1995)。発売後、日本でも爆発的にヒットして現在もエスティ・ローダーの屋台骨として君臨しているプレジャーズが、1とつけたとたん脳裏に噴出、うちに1滴もあったためしのないプレジャーズが脳から湧き出たという事は、この辺のシアーフローラルな香りが現代におけるフローラルの世界標準で、「出すぎず、誰からも嫌われず、透明感があって、フレッシュ」が、もはや今この時代におけるモダン・クラシックであり、タイムレスの地位を獲得しているのかと、この辺りのシアーな香りにあまり触手の動かないまま時を過ごしてきた私は、若干の狼狽を持って受け止めました。

私がこれまで、やれタイムレスだ、モダンクラシックだと吠えた香りは「ノスタルジア」という言葉で括るべきかと揺れています。90年代調フルーティな明るいシアーフローラルが、どっしりとパルファム濃度で湧いてくるとこういう風に品よく香る、模範のような香りです。フローラルの主軸はミモザとマグノリアで、そこに柑橘類の花々やカシスなどの渋いベリー、全体の統率となるローズやジャスミンがシームレスに調和し、ベースのアンバーやホワイトムスクも、香り持ちを高めている以外、重さとして存在しないので通年気負わず使える爽やかさと温かみを備えています。1は彼女が私家版の傑作として所蔵していた処方で、今回ピュアディスタンスから世に出したとの事ですが、なりたちがエスティ・ローダー夫人の私家版であった傑作、プライヴェート・コレクションと似ているのも不思議な因縁です。

ただ、香りの印象としては20-30代向けで、誰からも愛されて香水が苦手な人でも楽しめるタイプの香調で、生涯忘れられないとっておきのエレガントというよりは上質な普段着だと思うので、刺すように薄くて軽くてきついのが気にならなければ、それこそプレジャーズやプレジャーズ・インテンス(プレジャーズがより生花っぽくアレンジされたもの)を惜しみない身の丈の普段着として楽しんで、この香りが似合う年頃を過ぎたら、新たな出会いを求める、でも良いのではないかと思います。逆を返せば、何より「つけた女性とともにその場から消え去り、跡形もなくなる、非常に個人的な香り」、つまり誰のためでもなくつけた本人自身と彼女を丸裸に出来る相手にしか香らない「超接近戦」処方が最大の特徴である1、シアーフローラルの軽さが好きだが、あのリニアな香り立ちが苦手だという方には、お奨めの逸品です。

1のイメージ画。優しい香りの割に、ボトルが愛想もこいそもない。それがデザインだ

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