La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Chanel No.5 EDP (1986)

 時代が変わり、シャネルの専属調香師もアンリ・ロベールから現在の
3代目調香師、ジャック・ポルジュへと交代します。ポルジュ氏はシャネル
の過去の遺産を受け継ぎ、真摯な解釈で新しい濃度を展開していきますが
5番も1986年初めてオードパルファムが発売されます。時代の流れとして
段々パルファムの下火傾向が見えてきた頃で、パルファムでは重いし値も
張る、でもトワレでは持続も短いし物足りない、という隙間を埋める存在の
オードパルファムですが、5番のEDPはそれまでの濃度及びその後作られる
新しい濃度(Elixir Sensuel, Eau Premiere)の5番と、その表情は一線を画して
います。

EDP版5番は他の濃度と比べ、格段に表情が穏かです。体感的には一番パウダリー
で、アルデヒドのリフトに乗ったパウダリックなアイリスやローズが、
一過性の柑橘系にはない持続性の高い清浄感をもたらします。EDTと比べたら
フルーティさは控えめで、逆によりフラワリーな優しさが強調されており、
香り立ちはEDTより柔らかく、持ちもEDTとさほど変わりません。持続を
期待してEDTよりEDPを選ぶと、少し期待はずれかもしれません。5番の場合は、
香り立ちや表情の違いを理解してお好みを見極めたほうがよいと思いますので、
是非購入の際はカウンターで実際に肌に乗せ、半日でも置いてからお選びに
なることをお奨めします。

正直なところ、長年EDTを使いつけていた私にとって、EDPはどこか勢いがなく
凡庸に感じ、5番であって5番にあらず、と受け止めていた部分があったの
ですが、この夏縁あって再びEDPを、しかも盛夏につけてみて、5番の持つ
多面体的な表情のうち、ポルジュ氏は「優しさ」に焦点を絞り、真摯に解釈した
結果がEDPなのではないか、と気づいた時、別格としての愛用の一瓶となりました。
5番のパウダリーな部分が好き、という方には何よりお奨めの濃度です。

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