La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Ques Sais-Je ?(1925)

【まえがき】

ジャン・パトウのマ・コレクシオンについて、総論と一部の香りについて簡単な解説を
述べましたが、その後所有するコレクシオンのボトルも増えましたので、今回より個別の
商品解説を時代順に追加します。香りのピラミッドは諸説ある中、アメリカの香水評論家
Jan Moran著'Fabulous Fragrances(1994)/Fabulous Fragrance II(2000)'を参考にしました。

マ・コレクシオンはフランスでは勿論、アメリカでもジャン・パトウUSAより国内流通品として
発売されており、上記著書で調香・仕様が詳細に紹介されています。「1984年当時はミニ
ボトルのコレクションだけの発売で、現在デッドストックとして流通しているのは2001年に
パトウがP&Gに買収された後の再々発品であり、よって香りも痩せているため、ヴィンテージと
しては認められない」との誤認も見受けられますが、フルボトルのEDT及びパルファムが1984年の
発売後、長らく一般流通品として存在している事が、上記著書の出版年からもわかります。

ジャン・パトウが1925年に発売した初の香水、Amour Amour, Ques Sais-Je? Adieu Sagesseは
愛のトリロジー(三部作)と呼ばれ、それぞれ「愛よ、愛」「何も知らないくせに」
「さよなら純潔」という、恋愛の三段論法を現す名がついています。

このうち、アムール・アムールはコレクシオン中でもヴァカンス、キャリーヌに並び
人気の香りで、フルボトルは法外なプレミアがついている事が殆どで試した事がないので、
香りの解説が三段論法にならないのが残念ですが、アムール・アムールはフローラル・
フレッシュとの事ですので、それを念頭において続くクセジュとアデュー・サジェスを
紹介します。

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トリロジーの中核、クセジュは、16世紀の仏思想家、モンテーニュの著作「エセー」より
有名な一句「私は何を知っているだろう?」に由来します。本来は常々、己の無知を
常に振り返り、向学の念を奮わす決め文句ですが、こと恋愛に当てはめたら「私、何も
知らないくせに」位の方がフィットすると思います。

「麗しき躁鬱患者」との異名を取るクセジュは、ピーチやアプリコットなど、プラム系
フルーツが熟れる前の刺すような酸味に相当量のオークモスとパチュリが絡み合う中、
同じく酸味のあるローズに冷たいアイリスなどが重なる乾いたフルーティ・シプレで、
ムスクやアンバーなどのオリエンタルな要素がないため、重さはありません。
恋に落ち、これから如何するべきか、自分は如何あるべきか、愛ゆえに理性を見失って
いくさまが香りとして見事に表現されています。時に心弾み、時に引き込まれ、表情を
豊かに変える一筋縄ではいかないクセジュは、この後続くフルーティ・シプレの構成に
多大な影響を与えており、例えば1989年にリニューアルされたファムは、担当した調香師・
オリヴィエ・クレスプがファムをオリジナルと忠実に再現する一方で、クセジュも重点的に
参照した、と公言しています。コロニー(1938)とも類似点が見られますが、クセジュの
ほうが確実に情緒不安定です。割と持続が良く、ラストはクリーミィにまとまります。
決して手放しに心地よい香りではありませんが、不思議と習慣性があります。

コレクシオンの中では突出した個性を誇る香りで、ゆえにヴィンテージ市場でも
相当な人気で、デッドストックも殆ど出回らず、あってもアムール・アムール他ほどでは
ありませんが、結構なプレミアがついています。

トップ:ピーチ、アプリコット、オレンジブロッサム
ミドル:ジャスミン、ローズ、カーネーション、アイリス
ベース:オークモス、パチュリ