La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Une Folie de Rose (2004)

立ち上がり:なんとも豪勢な香り ローズ系と苔系の微妙な感じです
昼:少しスパイシーな感じがしてきました
15時位:だいぶ薄くなってきましたがこの上品な香りは夏のオヤジ汗と戦わせるのは可哀想です。全体の印象はローズと苔系の複雑な感じが維持されてます
夕方:かなり奮戦していただきましたがつけたて日がかなり湿気がジトッとした日でしたので下劣な加齢臭に敗北してしまいました。違う季節につけたらよかったような気がします。残念!
ポラロイドに映ったのは:夏でも長袖きて袖もまくらない青年。暑い日は外に出なくても良い身分な御方かね。
 
Tanu's Tip:
 
かつてジェントルマンにとってパルファン・ロジーヌは、ゲランのベチバーに出会う前はご贔屓ブランドのひとつでした。ジェントルマンのファーストロジーヌはディアボロローズ(2007)。ローズにミントやマテ茶がブレンドされ、しゃきっとさっぱりビターシトラス系のローズで中々良かったので、本来ならこの場でディアボロローズをご紹介したいところですが、お約束の廃番(注:2018年8月現在、復刻後ロジーヌパリ店舗及び公式サイトにて限定販売)手に入りません。廃番後乗り換えた、今でも大人気のゼストドローズ(2002)は店主タヌの好みに合わないため却下。というのもロジーヌのベストセラー、ゼストドローズは結構ケミカルに長持ちするシトラスローズで、拡散力も強く、墓参の際高台にたつジェントルマンから流れてくる香りが、風下で嗅いで軽く殺意を感じるほど不愉快だったので、使い切った後のリピートはありませんでした。①薄くて②軽くて③きつい「香水の三悪(Axis of evil perfume)」の範とも言うべき不快感が、一般的には大変好評で、ショップチャンネルで人気が出た若干ビッグ・イン・ジャパンブランド、パルファン・ロジーヌの日本での売れ筋No.1(のちに日本フレグランス協会主催・フレグランス大賞で2016年「10年以上、日本市場で販売継続し、現代の名香となった商品」に贈られるホール・オブ・フェイム-ロング・セラー受賞。ちなみに日本フレグランス協会会長はロジーヌ輸入代理店の株式会社フォルテ取締役、吉岡康子氏)だったので、これは私自身の嗜好性に起因する問題です。常々、己の嗜好性のマイノリティぶりには常々閉口しております。
 
そういうわけで、罪滅ぼしというわけではありませんが、ロジーヌを一からやり直すことにしました。店主タヌ手持ちのロジーヌ作品はローズドロジーヌ(1991)、フォリードローズ(2004)、そしてローズダムール(2005)、ローズニュ(2017)、すべてレディスものですが、是非ともシックなシプレローズは殿方にもモノにして欲しいと思い、手持ちのロジーヌからフォリードローズを実装してもらうことにしました。

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フォリードローズ EDP 50ml
2004年に発売されたフォリードローズは、名匠ギィ・ロベール師のご子息で、調香師としては4代目にあたるフランソワ・ロベールが手がけています。フランソワ氏はパキスタンの香料会社、シナロームおよびムンバイの化粧品会社、ゴールドフィールド・フレグランスに勤務後、現在は拠点をイギリスに置き、クインテセンス・フレグランス社(ボーラムウッド:ブライトン近郊)代表として処方を提供しています。そのため近作はイギリスのブランドのものが多く、ベックス・ロンドン、フリードモディン(廃業の可能性あり)や英国コスメブランドのフレグランスを幾つか手掛けています。LPTでも過去にご紹介し、今般晴れて日本再上陸が叶ったニコライの、サクレブリュ(1993)をパトリシア・ド・ニコライと共作しているのはキャリア中の変わり種ですが、これまで一番多く手掛けたブランドが今回ご紹介するパルファン・ロジーヌで、初出のローズドロジーヌ(1991)からロータス・ローズ(2012)まで10作調香、メンズ作品で唯一廃番になっていないローズドム(2005、日本終売)や、冒頭のジェントルマンご愛用だったディアボロ・ローズもフランソワ氏の作品です。
 
香りとしてはモッシー感たっぷりでフルーティな表情すら持ち合わせたフローラルシプレで、ロジーヌ作品の中でも群を抜いてクラシックな表情があります。この系統は、戦後高度成長期から多くのブランドから登場した、明るく爽やかだけれど、どこかしっとりした肌の柔らかさと、少しだけ感じる手の冷たさ、みたいなシックで知的なフローラルシプレ…イグレック(1964、YSL。現行品のメンズとは全くの別物です)、ジバンシィⅢ(1970、ジバンシィ)、コリアンドル(1973、ジャン・クチュリエ)をルーツに、特にコリアンドルをベースにローズましましのドジョウを丁寧に作ったらフォリードローズになるのではないか、そしてその流れにはディオレッセンス(1979、ディオール)のような70年代後半のスタイリッシュなオリエンタルシプレから1980年代の壮麗なモッシーシプレ…ディヴィーヌ(1986)、ディヴィーヌ)、ノウイング(1988、E・ローダー)、オダリスク(1989、ニコライ)の流れも合流しており、より密度の濃いシプレローズへと昇華しています。ベルガモットとコリアンダーでスパイシーに始まり、徐々にフレッシュ、フルーティ、スゥイートと様々なローズが、パウダリーなアイリスや華やかなイランイランと共に花開き、たっぷりとしたオークモスとサンダルウッドが滑らかに包み込むーこういう、隙がなく口数は少ないけれど、相手の話はしっかり聞いてくれて、最後に忘れられないひと言をくれる、心根の優しい人を彷彿する香りは大好きです。

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全国のロジーヌ取扱店及びフォルテのオンラインストアで購入可能
フォリードローズは公式サイトでは"The Classics"にカテゴライズされていますが、クラシックまたはタイムレスな香りを忌み嫌う傾向にある国内の輸入代理店がこの香りを日本で終売しないのは特筆すべき驚異だと思います。よほどコアなファンがいるのか、取扱店頭では、売れ筋のゼストドローズやグラムローズなどと一緒に、どのようなセールストークでフォリードローズを販売しているのか、興味あるところです。ちなみに昨年の伊勢丹サロンド・パルファンでオーナーのマリーエレーヌ・ロジョンさんに店頭でお会いした際「フォリードローズが一番好きで、ボトルも持っている」と伝えたら、少々驚かれ「あなた、本当に香水が好きなのね!」と嬉しそうでした。ロジョンさん、あれから約1年、ジェントルマンがつけたら、真夏でも長袖の高貴な青年がポラロイドに映りました。作品の狙いとしては、それでOKですか?今回は汗で台無しにしてしまいましたが、きっとシャツの袖をまくる必要のない季節、再びフォリードローズをつけたジェントルマンは、さぞ面立ちの上品な殿方に見える事でしょう。
 
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