La Parfumerie Tanu

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Sir Irisch Moos (1966)

A Gentleman Takes Polaroids chapter eight : An Origin of a Gentleman
 
立ち上がり:うーん懐かしい男の香水の匂いだ。子供の頃に大人がつけてたヘアトニックぽい感じもする
 
昼:トイレの芳香剤みたいだなあ…
 
15時位:古びたビルの洗面所を思い出すぞ
 
夕方:なんにせよ懐かしい香りだ。しかし二度とつけようとは思いわないかも…昔なんでこれを所望したのかよくわからない。
 
ポラロイドに映ったのは:青年から中年への端境期の過ち。
 
Tanu's Tip : 
 
ドイツ大手大衆化粧品会社、モイラー&ヴィルツが、ドイツなのになぜか「アイルランドの苔」にインスパイアされて作ったメンズライン、サー・アイリッシュ・モス。ちゃっかりサーの称号までついています。かつてアイリスと苔、みたいな意味だと紹介されていたこともありますが、Irischはドイツ語で「アイルランドの」「アイリッシュ」という意味で、アイリスは形容詞でもIrisと無変化なのと、アイルランドは苔で有名で、全ヨーロッパに生息する苔の実に約半数がアイルランドに集中しているので、苔といえばアイルランド、アイルランドの苔、サーアイリッシュモス、というわけです。いちおう発売から50年を過ぎても廃番になっていないロングセラー品です。
 
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サーアイリッシュモス オードトワレ50ml 各種グルーミングラインあり
 
明治屋のメロンシロップばりに着色したグリーンの液体で「苔」のイメージを増長していますが、こんな絵具みたいな緑の苔があるかよ!というぐらい、香りもいたってケミカルなハーバルグリーンです。これを、身体につけるのか?とまで思いますが、実はこのサーアイリッシュモス、今から10年くらい前のある日、ジェントルマンが古い香水本で紹介されていたドイツのメンズフレグランスを見ていて「ショウブの根と苔」と訳されていたサーアイリッシュモスに強烈な興味を持ち、そんなにつけてみたいなら、買ってあげよう…と、日本未発売なのでEbayかなにかで買ったところ、まあ甘くて重く、ショウブ(アイリス)は誤訳なので目立ったアイリス香もなく、濃厚で古臭いおっさんメンズ香水臭だったんですが、ジオッサンなだけでそう悪い香りでもなかったんですよ、ただあまりに重くて、当時淡口好みだったジェントルマンはサーアイリッシュモスを、冬場には時折手に取っていましたが、あまり使わないうちに棚晒しで何年も経ってしまい、大掃除かなんかの時に洗面所からおろして私が捨ててしまったんですよ。それで、まあこのジェントルマンコーナーを始めたら、やたらと「サーアイリッシュモスに似ている」と亡霊のように思い出すので、あれがジェントルマンの原点なのか、捨てなきゃよかったな、ともう一度買い直したわけです。そしたら、この私でもおかしいと思う位、香りがケミカルに変わっていて、もはや香水と言っていいのか?と思う位どぎつい処方変更で、まあ、よくある話で最初は真面目に作っていてもだんだんドラッグストアラインに零落して、処方も材料も安っぽくなったんだろうな、でも長年の愛用者は今やおじいちゃんだろうから、嗅覚も多少バカになって需要と供給が合致しているのかな、と、サーアイリッシュモスといい、一昨年英国地方都市薬局特集でご紹介したレンセリックのツイードといい、こういう現行品を手に取り、嗅いだ瞬間ノックアウト、という強烈ケミカル臭のクラシックフレグランスには、どこかパターン化した「負の段取り」みたいなものを感じます。破壊力的には資生堂のオードロードスを彷彿とします。あれも甘酒横丁(人形町)の古い薬局では、フルラインナップ棚にあって、お店の人に聞いてみたら「基本、うちは香水や化粧品は在庫しないんだけど、定期的に来る人がいる商品だけは在庫して棚に並べているんですよ」と言っていましたが、サーアイリッシュモスも、思うにドイツではチェーン店系のドラッグストアや普通のスーパーじゃなくて、高齢化が進んだ地域の個人商店や、盛岡のニュータウンにあるスーパーのメンズコスメ売り場みたいな所でしか手に入らないじゃないでしょうか。
 
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参天製薬 大学目薬って感じ
 
ちなみにモイラー&ヴィルツは1792年から200余年世界で愛されている元祖オーデコロンの一つ、4711を出している会社で、日本では柳屋ポマード(まだ売ってます)で有名な柳屋本店が輸入総代理店ですが、さすがにサーアイリッシュモスは出してくれない、というより出しても使う人がいなさそう…
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