La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Mon Petit Loup (1973)

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モンプティルゥ 香水 17ml 9,700円(税抜) ※2017年2月現在
 
日本メナードのフレグランスの現行ラインナップとしては最長寿となるモンプティルゥは、メナードが岩下志麻、松坂慶子と専属契約した翌年、創業より14年目にあたる1973年7月に発売され、昨年メルファムのパルファムが終売した2017年2月現在、メナード唯一のパルファム(香水濃度)となりました。ちなみにメナードは、1970年代に発売された香りをなんと5種類も現行品として作り繋いでおり、クラシック香水ファンにとっては桃源郷のようなメーカーです。
 
メナード 1970年代発売のラインナップ:
モンプティルゥ(1973)
シャングッテ、ル・トローン、ラ・コール(1976)
メルファム・パルファム(1979)
注)現行のオードトワレは1981年に追加発売
 
フランス語で「愛しい人」「小さな恋人」の名を持つモンプティルゥですが、まさに「愛しい昭和の恋人」。ちょっとだけ悪い女の予感も持ち合わせた、賢さと艶めかしさを並走させる、体臭のある芳香を放つ生身の女性を感じる、往年のフローラルアルデヒドシプレです。フレッシュでビターなベルガモットや青々としたガルバナムの立ち上がりから、すでに後ろには生々しいジャスミンがだっぷりと溢れていて、そこにジューシィなローズに混じってアニマリックなムスクやシベットが本気で香ります。そしてベースに流れるパチュリとオークモスがすりガラスのようなパウダリー感を生み、厚み、深さ、染み出し感、そしてパウダリーなベースと、クラシック香水への期待すべてに応えています。今この時代、しかもこの日本で、こんな内腿の汗まで感じるぬめっこい香りを新品のボトルから嗅ぐことが出来るなんて、至福の喜びと言って良いでしょう。あった、日本にもまだあったと、モンプティルゥを肌に乗せた時の第一声は「うわああああ」でした。
 
濃厚なパルファムならではの抑えた香りの拡がりを武器に、肌の上でじわじわと香りの雲に変わり、ふとした動作にのぼる香りの色っぽい事、確かに今の日本の流行からいえば「おばあちゃんの香り」と一蹴されて終わる危惧もある香調でしょうが、もし今本気で香水の黄金時代ー1920年代から30年代に生まれた往年の名香が持つ序破急を、ここ日本で、国産香水の中から、廃番ではなく現行品で見つかり、真新しいボトルの金線を切ることが出来るのは、日々ヴィンテージを漁ってはカビジュースに撃沈を食らうクラシック香水ファンとしては、まさに「灯台下暗し」の幸せです。そして特筆すべきは、何と言っても1日の終わり、脱いだ下着に染み入る残り香の美しさで、自分で脱いだ服に自分で顔を埋めて「えええ〜香りや〜〜〜」と嗚咽を漏らす密かな愉しみのオマケ付きです。
 
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昭和の恋人 モンプティルゥ 夢、醒めないで…
 
かねてより思うのですが、メナードのような訪問販売からスタートしたメーカーは、普段の何気ない会話の中でも「え、メナード?どこで買えるの」「人が来ないと買えないんでしょ」と、そこでアクセスに繋がらないハードルのようなものを感じることがあり、実際はオンラインショップで誰でも購入は可能なのですが、ブランドや製品名は提供番組のCMや広告で目にはしても、確かに資生堂やカネボウのようにデパート店頭や化粧品店といった間口の広いアクセスポイントではなく、店頭に在庫を持たないエステサロンや訪問販売を行う代行店が中心になるので、商品の購入は取り寄せになります。またフレグランスのテスターをすべて揃えている店舗もかなり限定されているようで、6年前にメルファムのレビューを書いた時は、名古屋のサロンからテスターを転送して近所のサロンで試香させていただきました。香水について言えば、パーソナルカウンセリングの上購入できるのは有難いですが、モンプティルゥやメルファム、ル・トローン、シャングッテ、ラ・コールのようなクラシックなものから、緑映、たおや香のようなトレンドを掴んだもの、オーセントのようなタイムレスなものまで、これだけ良質なフレグランスを今でも多数ラインナップしているのに、気軽に自分でテスターを試香できる場が限りなく限られているのは少々残念な気がします。海外拠点のように店頭で手に取ることができたら、もっとメナードの香水ファンが広がるのではないか、と思います。
 
話はそれましたが、つけてよし、脱いでよしのモンプティルゥ、お願い、終売しないで、絶対処方は変えないで、夢、醒めないで…

LPT Scent of the Month : February 2017

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LPT 今月の香り アバニタEDP 2月27日(月)まで展示中

2017年1月より毎月1本、店主タヌが選ぶおすすめの香りを、キャバレーLPTでお馴染みの図鑑図書館、Book cafe bar Fumikuraの店頭にてディスプレィしていただいております。サンプルムエットによる持ち帰りOKの試香スタイルが好評で、ご自分のFacebookタイムラインにてご紹介下さるお客様もいらっしゃいました。香りの解説はQRコードにて当LPTブログへ。スマホでブログの解説を読みながらムエットを試香し、美味しいお飲み物の合間に「えええ~香りや~~~」と恍惚のひと時をお過ごしください。 

お楽しみの第2回は、店主タヌの大好物、モリナールのアバニタをご紹介。かつては「ボインの香り」とLPTでも大絶賛した、色で言ったらこげ茶色の、ユッサユッサなあの香りです。真冬でしたらボイン感控えめで、優しいバニラとナツメグ、アンバーがローズやイランイランと温かく香ります。最新リニューアル版であるこのEDPは、昨今の落胆しきりな処方変更ものとは無縁の稀にみる出来栄えで、しかも手頃な価格と来たら試さずにはいられません。堂々1921年生まれのアバニタ、クラシック香水ファンなら外せません!

詳細は、下記リンクP(Fumikuraウェブサイト)およびLPTでの紹介記事をどうぞ。都内近郊にお住まいの方、LPTの魅力を直に感じていただける月替わり常設企画を、大人の図鑑図書館・Fumikuraにお運びの上、おいしいお飲み物やお食事、素敵な蔵書と共にお楽しみください。

今月の香り no.02「アバニタ」 - fumikura

lpt.hateblo.jp

 

Monsieur Rochas eau de toilette concentree (1969)

立ち上がり:ムッシュジバンシーと近い香りですがそれよりスパイシーな感じが強く感じる。
 
昼:最近つける「ムッシュ」なんちゃら系はみな昼には消え失せてしまいますなあ・・・・ジバンシーよりスパイシーな残り香はやや多いような気がしますが。
 
15時位:どこ行ったの?という感じですが肌に鼻近づけると結構香り残ってるだよな。近接戦闘専用(?)か?
 
夕方:サヨウーナーラー。いつの間にか消えたけど一応お別れの挨拶はしておくよ。
 
ポラロイドに映ったのは:向こうから打ち合わせの相談されたんでスケジュール空けた、当日用にやたら図や表を使った資料がPDFで来た。読んでもポエムのような文章だけで良くわかん→当日、約束の時間に来ない、携帯繋がらない、メール返信無しで半日経過後「行けませんでした。別の日で空いてる日ありませんか?」というメールをよこす仕事相手。(実際会うとやたら弁が立つとこが微妙)
 
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ムッシュ・ロシャス オードロワレ・コンセントレ(左、中)、オーデコロン
 
Tanu's Tip :
 
「ムッシュ、ムッシュ、ジェントルマン」と称し、新年初のジェントルマンコーナーを颯爽と飾るメンズクラシック3選、ラストはこれまた「香水は、良い香りでなければならない」という究極の格言を残し鬼籍に入った巨匠中の巨匠、ギィ・ロベール師(1926-2012)がロシャスで作った唯一のメンズフレグランス、ムッシュ・ロシャスをご紹介します。ロシャスは先にムスタッシュ(1948)を初のメンズとして発売しており(こちらはエドモン&テレーズ・ルドニツカ夫妻の共作という珍しい夫婦合作で、日本撤退したフレデリック・マルのテレーズ香水により、奥さんも著名な調香師、と発売当時はよく紹介されていましたが、実際何を作った人なのか、作品を紹介している記事は日本で見たことがありません。ちなみにマルちゃん日本撤退についてですが、伊勢丹では終売したものの、現在ドリスヴァンノッテン本店やトゥモローランド渋谷本店などで細々と取扱いはあるようで、一応公式ウェブサイトには販売拠点として残っています)、メンズの第2弾をマダム・ロシャスのメガヒットを生んだロベール師にお願いしたのは自然な流れだったのかもしれません。写真ではオーデコロンと濃度の高いコンセントレがありますが、ジェントルマンには後者を試してもらいました。現在は廃番です。
 

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「おはよう」「お疲れ様」挨拶はビジネスの基本です、たとえ相手が返事をしなくても

 
フジェールの基本に則りラベンダーとオークモスでこんもりアウトラインを築き、ジオッサンな温かさと包容力がありながらガルバナムやカモミール、カルダモンなどスパイシーな寛ぎのアクセントで、60年代もそろそろ終わりを告げる時代にふさわしい軽さも持ち合わせたアロマティック・ウッディシプレのムッシュ・ロシャス、これまた品よく、かつ男らしくまとまった、肌なじみの良い香り立ちで「これは接近戦用か?」といいところに気づいたジェントルマンですが、敵の正体を暴く前に消え去られてしまったものの、別れの挨拶を欠かさない礼儀正しさがいいですね。空気を乱さず、肌で温かく香る。いいじゃないですか。ムッシュだけに香り方が紳士的ですね。しかしポラロイドに映ったのは、こんなのご免こうむりたいビジネスパートナーの姿。いい香り、素敵な場面を目の当たりにしても、思い出すのは困った人の事ばかり。よく仕事の悩みを抱えている方にアドバイザーみたいな人が「オフィスのドアを開けて一歩外に出たら、会社の事は全部忘れましょう。それが一番の治療です」って気軽く言うのを耳にしますが、それができたらその人はそもそも貴方にそんな事、打ち明けないのでは?という気がします。

Monsieur de Givenchy(1959)

立ち上がり:柑橘系の香りに少しスパイシーな感じもあり。良い感じですな
 
昼:もうほとんど香らない。肌に鼻近づけると判るけど既につけていたことを忘れている
 
15時位:あれ?私何かつけてたっけ?ここまで消えてしまうのは私の体臭がきついからなのか?いや、そんな筈はない!
 
夕方:忘却の彼方。良い香りなんですけどね。
 
ポラロイドに映ったのは:デビュー作が評論家に絶賛されるもそれ以降「悪くないんだけどねー」と言われ続けていつの間にか誰も気にしなくなって消えてしまうスコットランド出身のギターバンド(特定のバンドを指してるわけではありません)
 
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ムッシュ・ジバンシィ 2007ミシーク版EDT 100ml
 

Tanu's Tip :

 
1959年、ジバンシィ初のメンズフレグランスとして、昨年10月にご紹介したベチバーと共に登場したムッシュ・ジバンシィ。その2年前にスウィートなランテルディとルド(1957)でスタートしたばかりのジバンシイは、早速ペアフレグランスとしてもお使いいただけるよう、2種類のメンズを発売したわけですが、折しもグリーンシプレやシトラス・アロマティック〜シトラスシプレのような、オークモスもっこりで爽やかさと思慮深い穏やかさを併せ持つ香調がメンズのラインでは人気急上昇、そこでジバンシィも間違いない所でそつなくグリーンのベチバーとシトラス・アロマティックのムッシュ・ジバンシィを出したのでしょう。女性が彼氏のボトルを拝借してまとっても、充分爽快で無理がありません。
 
ところが非常に肌馴染みよく快適な、過剰に男を主張しない、この手の淡麗美男子最大の弱点は「持続が弱い」。裏を返せば「相手にしつこくしない礼儀正しさ」「諦めの良い潔さ」につながるのですが、先立つ事4年のシャネル・プールムッシュウよりも造作がシンプルな、さらにサラサラ、キラキラとした岩清水系シトラスシプレであるムッシュ・ジバンシィは、シトラス+ラベンダーやバーベナなどのアロマティックハーブ+オークモス、といった超スタンダードな構成で、第一印象はすごくいいが今そこにいたかと思うともういない役付の中年男性のようで、おはよう、あれ?今そこに部長いたよね、あの人いつもニコニコして感じもいいし、身持ちも良さそうだけど、ここ1番って時にいつもいないんだよね!せめて席に座ってハンコでも押しててくれてりゃいいのに、いないんじゃどうしようもないじゃない!なに、客と昼飯行った?まだ11時じゃない…そして、部長が「朝は確かにいた」事を誰しもが忘れて通常業務は滞らず、といった存在感の薄さを感じます。
 
通常、ジェントルマンコーナーは「下半身に6プッシュ」という基準値を設けているのですが、とてもそれでは鼻まで香りがあがってこないので、ジェントルマンにはやれ腹につけろとか胸に10プッシュしろとか例外指示をしてまで試香してもらいましたが、それでもポラロイドに映ったのは「スコットランドのギターバンド」。何故か、スタミナ不足で気づいたら全く存在感のない香りを試すと、高確率でスコットランドのギターバンドが写ってしまいます。そんなにスコットランドのギターバンドは持ちが悪いんでしょうか。そういえば、80年代から90年代にかけてグラズゴーや周辺地域から多数世に出たギターバンドは、確かにデビュー盤は絶賛されるのですが、評論する方も堪え性がなくてすぐポイ捨て、本人たちも根性続かず解散、何十年もしぶとくやってるバンドってあまり思い浮かびませんね。残っているのはティーンエイジファンクラブとプライマルスクリーム位でしょうか。
 
 

Chanel pour Monsieur(1955) EDT

A Gentleman Takes Polaroids chapter seven : Monsieur, Monsieur, Gentleman
 
立ち上がり:シトラス系の香り。上品な感じで私には似合わないけど似合う人がつければ良い感じだろうな。
 
昼:むう・・・・・ほとんどつけたんだがつけてないんだが判らなくなった
 
15時位:昼に食べたネギの臭いに押されてるぞ。どこ行った?
 
夕方:おーい!どーこーに行きましたかー・・・・・そのまま行方知れず そのまま行方不明
 
良い香りなんですが持続力がない感じです。
 
ポラロイドに映ったのは:クラス替え当初だけ元気で一瞬人気者になりかけるが夏休み明けから不登校になっちゃう奴。具体名は差しさわりがあるので出せません。
 
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プールムッシュウ EDT 100ml そのまま行方不明
Tanu's Tip :
 
シャネルが5番(1921)を皮切りに香水を発売するようになって間もなく100年になりますが、メンズフレグランスに着手したのは5番から下る事34年、専属調香師がアンリ・ロベール(1899-1987、専属期間1953-1978)になってからになります。アンリ・ロベールと言えば巨匠・ギィ・ロベール師のおじさんに当たる方ですが、手掛けた香りの数は少ないものの、いずれも深く、ぐりぐりと香水史に名を刻むものばかりで、先月「冬のジェントルマン」でもご紹介したドルセーのル・ダンディ(1925)オリジナル版(注)をはじめ、コティのミュゲドボワ(1941)、そしてシャネルの専属調香師として手掛けた3作、今回ご紹介するプールムッシュウ(1955)、19番(1971)、クリスタルEDT(1974)と、アンリ・ロベールが手掛けたこの5作はすべて名香として、香水評論の場には必ず登場します。
大ロベール師のシャネル3作品に共通するのは、石清水のように透き通った、中性的ともいえるグリーンフローラルノートとオークモス。そこにシトラスとシプレのさじ加減を絶妙に変えてマニッシュにも、フェミニンにも表情を豊かにしていく匠の仕事です。プールムッシュウは、3作品の中でも殊のほか「人柄の良さ」を感じる逸品で、ジューシーでフレッシュなシトラスからふわり、ふわりと温かみと渋みの現れる、上品なシトラスシプレです。決して声を荒げない、手を挙げない、しかしそれは弱さではなく人柄の良さなしでは叶わない知的な穏やかさで、もし戦前にエルネスト・ボーがメンズを手掛けていたらこうはいかなかったのでは、と思う程で、実のところ(特に戦前の)シャネルのレディスとはペアフレグランスとしてあまり成り立っていない感があります。シャネルは既発品と共にプールムッシュウからクリスタルのたった3本で20年間をつないでいくわけですが、シャネル第2のメンズがアンテウス(1981、ジャック・ポルジュ作)、ジャック・ポルジュ期初のレディスがココ(1984)ですから、時代性もありますがこの20年間はシャネルほぼ100年の歴史において「例外期」と言えなくもありません。
プールムッシュウは30余年後、リッチなバージョンとしてコンセントレ(1989、ジャック・ポルジュ)、のちに2016年オードパルファムが発売されましたが、せっかくの淡麗美に胸毛を生やしてニヤニヤさせたみたいで、個人的にはこの淡口なムッシュウが好ましいのですが、ジェントルマンの肌に乗せるとどうも持ちが悪いようで、この淡口な魅力がつかみきれないのか、知的なムッシュウは残念ながらあっという間に行方知れず、そのまま行方不明。持続の弱さはクラシックなシトラスシプレの宿命、そこがまたつけ飽きない魅力として、頻繁にタイムレス・フレグランスとして名が挙がる所以と言えましょう。どっとはらい。
 
 
注)先月ご紹介した2009年版ル・ダンディの調香はドミニク・プレッサの再処方で、オリジナルとはだいぶ趣が違うとのコメントあり: